【新刊】「技術とロマン 川田忠樹回顧録」

 橋梁・鉄構メーカーの川田工業(南砺市、社長川田忠裕氏)を中核とする川田テクノロジーズ(同)グループは、2022年5月に創業100周年を迎えた。本書は現相談役川田忠樹氏の生い立ちから3代目社長としての仕事など、これまで歩んできた道のりを、橋の専門紙「橋梁通信」で連載されたインタビューをもとに、取材した佐藤薫氏が新たに加筆、修正してまとめた回顧録である。

 1935(昭和10)年南砺市に生まれた川田氏は、東京外国語大学仏語科を卒業直前に会社の苦境を知り、予定していた米国留学をやめて川田工業に入社。文系卒でありながら東京大学橋梁研究所の研究生として橋梁工事の技術と知識を学び、技術者としての領域にも深くかかわっていく起伏に富んだ人生を描いている。

 その真骨頂は、夢の架け橋と呼ばれた1988年の着工から98年の完成に至る本州四国連絡橋(明石海峡大橋・表紙の写真)になぜ参画できたのかにある。同業大手の冷たい視線や社内の不安の声のなか、長大スパン吊橋で世界初の「ヘリコプターによるパイロットロープ渡海工法」を開発。新たな橋梁技術の確立と、設計は役所の役割だった時代に業界でもいち早くコンピューターを取り入れ、四国工場の建設などによって橋を完成させた事業プロセスが詳細に語られる。

 話題は米国やカタールなど海外事業での挫折、実現できなかったヘリポート構想や、英国女王臨席の式典の思い出など、橋梁工事から世界へと広がり、海外で出会った研究者との交わりなど人との縁を大切にしてきた川田氏の人柄にも触れる。

 また60年以上にわたり川田氏と付き合いのある伊藤學東京大学名誉教授が「一地方企業を全国トップクラスの専業メーカーに育てた手腕と、文系にもかかわらず技術に関して理解と実行力があり、橋梁分野で多くの著作を残してきた」ことに高い評価を寄せており、写真や図も交えた技術的な説明のほか、同社の技報や社内報、川田氏の数多い著作の一部なども挿話として掲載されている。

 A5版、発行は橋梁通信社、定価2,500円(税込み)。