韓国財閥の対北事業の展望(2)4大財閥の南北協力事業の動向

三星グループの動き

 サムスングループは10数年ほど前まで、ブラウン管テレビ、電話機、ラジオなどの部品を北朝鮮・平壌で委託加工生産を行った実績がある。この事業は拡大することなく、2010年に打ち切られている。

 再び北朝鮮での事業化に乗り出すきっかけとなったのは、2度の米朝首脳会談である。18年6月のシンガポール、19年2月のベトナムハノイで開催されたトランプ大統領と金正恩委員長の首脳会談である。この時、証券会社各社は先を争って南北経済協力専門担当チームを立ち上げた。ハナ金融投資は「韓半島統一経済TF」、新韓金融投資は「韓半島新経済チーム」そして サムスングループの三星証券は、第1回目の米朝首脳会談がシンガポールで開かれた時に合わせて、同証券リサーチセンター内に「北朝鮮投資戦略チーム」を新設した(図表6)。構成員はリサーチセンター研究員5人と外部諮問委員2人の7人で構成された。 

図表6 サムスングループ(三星証券)の対北朝鮮の主な事業活動
資料 : 各種報道より作成

 その際「CVID」(完全かつ検証可能で元に戻すことはできない非核化)を大前提として、三星証券・北朝鮮投資戦略チームは「韓半島CVIDの時代」を発刊し、さらに、政府主導の元山開発協力銀行の設立による元山開発事業を提言するなど、活発な動きを見せていた。具体的には、元山開発協力銀行の資金は政府70%、産業銀行15%、輸出入銀行15%の出資によるとした。

 しかし19年半ばになると、北朝鮮の相次ぐミサイル発射による挑発で、証券会社を含む金融機関の南北経済協力関連組織の動きは大きく後退した。18年から対北朝鮮金融事業および協業のために準備した金融機関のタスクフォース(TF)組織は、北朝鮮の調査研究チームに役割を引き下げ、表立った活動は影を潜めている。

 三星証券においても、3度にわたる米朝首脳会談が取り行われたにもかかわらず、朝鮮半島を巡る安定化に何ら進展は見られなかったことから、北朝鮮投資戦略チームは現在、米朝交渉がたとえ再開しても現状からの進展が困難と判断している。

 さらに追い打ちをかけるように20年6月、北朝鮮が開城にある南北共同連絡事務所を爆破したことで、金融市場への影響は限定的であるとはいえ、証券業界にとって南北共同事業への道筋が見えなくなったことは事実である。現在の三星証券は、投資戦略チームを組織として維持しているものの、北朝鮮ブリーフィング資料を週単位で出している程度であり、月刊報告書に至っては北朝鮮に限定されたイシューよりは、米中関係など地政学的イシューに内容が変わってきている。

LGグループの動き

 LGグループにおいても、文在寅政権の親北政策と米朝首脳会談を受けて、南北経済協力に対する期待感が高まり、資産運用会社が南北経済協力関連ファンド商品を再整備し、証券会社が北朝鮮関連投資のための戦略チームを設けるなど、受入れ体制の整備に走った。

 2度訪朝していた具本茂(ク・ボンム)LG会長が18年5月に死去したことから、18年9月の第3回南北首脳会談には4代目・養子の具光謨(ク・グァンモ、1978年生)会長が随行した(図表7)。特にLGグループが南北協力事業において期待している分野は、中長期的には電力インフラ及び通信ネットワーク事業である。しかし具体的な成果を見るまでもなく、その後、南北関係は悪化し今日に至っている。

図表7 LGグループの対北朝鮮の主な事業活動
資料 : 各種報道より作成

SKグループの動き

 SKグループは他の3財閥と動きを異にしている。現代、サムスン、LGなどがインフラ整備を南北協力事業に挙げているが、SKグループは資金的な負担が少なく、しかもリスクがほとんどない事業から着手するとしている。SKグループは、SK林業を南北経済協力の先陣を切る企業に選定し、林業を通した北朝鮮の山林緑化事業の推進に関心を寄せている。インフラなど他の南北経済協力事業は時間がかかるが、山林分野はまさに即効薬の南北経済協力分野である。このために崔泰源(チェ・テウォン)会長も、SK林業を通した北朝鮮山林緑化事業の推進に高い関心を寄せている。

 長期的な事業としては、北朝鮮の通信、建設インフラが劣悪であることから、SKグループ系列会社の中でSKテレコムとSK建設が南北経済協力に参加する可能性が高く、また精油、LPGなどSKイノベーションのエネルギー事業も南北経済協力で重要な分野と位置付けている。だが今日まで南北協力事業に踏み込んではいない。

 こうした中で、崔泰源SKグループ会長の次女ミンジョン(2022年現在31歳)氏が、2020年11月、政治的な変化で北朝鮮に対する制裁がなくなり、外国人直接投資が可能になった状況が創り出された場合を想定して、アメリカ戦略国際問題研究所(CSIS)の同僚2人と共に寄稿した研究コラムが注目されている。

 ミンジョン氏の経歴について簡単に触れると、14年9月財閥出身の女性では初めて、大学卒業後、海軍士官候補生に志願入隊し、同年11月に初級将校として任官し、清海(チョンヘ)部隊と西海(ソヘ)艦隊などで2年間勤め、17年11月に除隊した。除隊後約2年間、中国の投資会社に勤務し、その後19年10月から1年間、アメリカ・ワシントンD.C.にあるCSISの客員研究員として活動していた。

 次女ミンジョン氏がCSISに寄稿した研究コラムの論点は、「北朝鮮・羅津(ナジン)港が政治的理解から抜け出して経済的潜在性を実現するためには、物流処理能力を開発するだけでなく、特定国家の国家機関が開発と運営に介入できないように、世界銀行やアジア開発銀行などの国際機関が役割を持つことで、構造的な努力が同時に進行されなければならない」という指摘だ。ミンジョン氏は「羅津港は相当な経済的価値を持っている」として「中国の北東部地域とロシア極東地域、北朝鮮をつなぐ地域流通のハブ機能として潜在力が大きい」と付け加えた。

 なお現在、彼女はこのような経歴を生かしてグローバルビジネスが多いSKハイニックスで、国際経営問題および通商、規制政策に関連した業務を担当している。ちなみに、崔会長の長女であるユンジョン氏はSKバイオファームに勤務し、長男(同27歳)はアメリカブラウン大学に留学した後、SKグループの戦略企画室に勤めている。

 ミンジョン氏は、羅津港の持つ地域流通のハブ機能としての潜在能力を高く評価しているが、北朝鮮の港湾能力全体を把握すると、韓国産業銀行が推計した北朝鮮の総荷役能力が16年末基準で4,157万トンであり、韓国11億4,000万トンのわずか3.6%水準に過ぎない。北朝鮮が保有している船舶トン数も、韓国の4,460万G/T(総トン数)に対して93万G/Tと2.1%にとどまる。