韓国財閥の対北事業の展望(1)揺れ動いた文在寅政権の北朝鮮政策

 2018年9月の文在寅大統領訪朝の際には、韓国から韓国経営者協会の孫京植(ソン・ギョンシク)会長、SKグループの崔泰源(チェ・テウォン)会長、サムスン電子の李在鎔(イ・ジェヨン)副会長、大韓商工会議所の朴容晩(パク・ヨンマン)会頭、LGグループの具光謨(ク・グァンモ)会長など、韓国を代表する経済人らが参加した。

 しかし文在寅大統領は、米朝の橋渡し役として機能せず、随行した韓国経済人らによる北朝鮮との産業協力のキッカケを醸成することもなかったため、南北経済協力への過大な期待も崩れ去った。

 北朝鮮はその後もミサイル発射や核実験を繰り返したことから、国際社会は北朝鮮への圧力を強めており、このため韓国政府及び財閥だけが、国際社会の規律を逸脱して積極的な融和政策を推し進めることは困難となった。

 一昨年8月に発生した北朝鮮の水害などに対して、韓国による人道支援と救援物資の呼びかけたにもかかわらず、北朝鮮は拒否する態度に固執するなど頑なな姿勢を崩さず、このため2022年の今日まで南北経済協力への道筋が不透明なまま、冷え切った南北関係が続いている。

 こうした中で南北が歩み寄る動きとしては、2021年7月に「対北朝鮮ビラ問題」で切断されていた通信連絡線が一時回復したことが挙げられる。北朝鮮が8月の米韓合同軍事演習に反発して再び遮断したものの、金正恩総書記は9月の最高人民会議で、韓国との関係悪化で断絶していた南北間の通信連絡線を10月初めから復旧するなど、紆余曲折を経て関係改善への模索が続いている。

 いずれにしても南北間の通信連絡線の回復は、北朝鮮が、半島の膠着した局面を打開することへの意思表示であり、今後これをキッカケに、関係改善が進展するかどうか注目される。

文政権の非現実的な終戦宣言

 文政府は2018年4月27日板門店(パンムンジョム)宣言、その年9月18日平壌(ピョンヤン)訪問軍事合意文を採択した「平壌共同宣言」により、金剛山観光開発と開城工業団地の再開に合意した。

 その後、文政権は南北共同事業の再開に向けて合意したものの、北朝鮮に対する国連の制裁は継続したままで、しかも米国を中心とする国際社会の同意は得られず、膠着した状態が続いている。この間の北朝鮮の反応は、文政権の意図したこととは正反対の南北共同事業の遅延に対する不満の爆発であった。

 北朝鮮は2020年6月、南北連絡事務所の爆破に続き、9月には海洋水産部傘下に所属する公務員を射殺して死体を燃やすなどの蛮行に走った。この事件の数時間後、文大統領は、国民の生命より北朝鮮との関係改善をさらに重要と考え、金正恩国務委員長の謝罪の一言を受け入れ、対北朝鮮糾弾決議案を撤回した。公務員殺害事件においても南北融和策を前面に推し進める韓国政府であった。この事件の共同調査を北朝鮮に申し入れたものの、北朝鮮は無反応に終わった。

 2020年に入ってからの一連の事件に対する北朝鮮の強硬な態度とともに、北朝鮮の核保有の拡大やICBM(大陸弾道弾ミサイル)の開発が進行している最中、この年の9月、文在寅大統領は、国連総会の一般討論演説において、休戦状態にある朝鮮戦争の終戦宣言を実現したい考えを示した(図表1)。

図表1 文大統領の対北朝鮮政策に係る主な演説内容
資料 : 文在寅演説全文及び現地報道より筆者作成。

 文大統領は「終戦宣言こそ朝鮮半島の非核化と恒久的平和体制の道を開く」と述べ、国連と国際社会に協力を呼びかけた。だが朝鮮半島の終戦宣言は、朝鮮戦争の当事者である米国、中国、北朝鮮などが賛成していない。

 文政権が一方的に朝鮮半島の終戦宣言を提案したというのは、関係各国との調整もなく、韓国政府の思い込みと期待だけが先行し、結局、北への外交政策が無策・無能であることを暴露しただけであった。