揺らぐサムスン共和国:バッテリーの技術革新に挑むサムスンSDI
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
市場調査会社SNEリサーチは、フォルクスワーゲン、テスラ、トヨタなど主な自動車メーカー12社の電気自動車生産台数が、2021年の368万台から2025年1,453万台、2030年3,936万台と急激に増えると予測した。
ガソリン車から電気自動車へのシフトが鮮明となりつつある現在、電気自動車の価格の30~40%がバッテリーであることから、その開発は過熱している。特に日韓中によるバッテリー生産が世界の約9割を占めているだけに、3国の主導権争いは熾烈を極めている。
覇権を握れるかどうかのカギは、バッテリーの価格、安全性、充電時間と走行距離などにかかっている。3国の中で韓国バッテリー企業は、LGエネルギーソリューション、SKオン、サムスンSDIの3社が代表である。
3社の主な動きを見ると、まず韓国でトップのLGエネルギーソリューションは、昨年第3四半期にGMのリコールに伴う引当金の調達で赤字に転落したものの、米国・テネシー州とオハイオ州にそれぞれ35Gwh工場(投資額23億ドル)を建設中である。
SKオン(SKイノベーションの100%子会社として2021年10月発足)は現在、米国・ジョージア州に第2工場を建設中、ハンガリーに第3工場、中国・江蘇省に第4工場に建設準備を進めている。特に米国ではフォードと協力して、バッテリー工場と電気自動車組み立て工場の建設に合計114億ドルを投資すると発表した。
そうした中でサムスンSDIだけは、対外投資や新規工場の立ち上げなどに、やや保守的な姿勢をとっている。この結果、2021年第3四半期に四半期ベースで過去最大の実績をあげ、特に電気自動車用バッテリー事業では韓国バッテリー3社の中で唯一黒字を記録した。
市場調査会社SNEリサーチによれば、2021年1~10月、世界各国に車両登録された電気自動車のバッテリーエネルギー総量は198.8GWhで前年同期比124.4%増加した。
バッテリー市場では中国・CATLが1位、BYDが4位、7位から9位も中国企業であり、トップ10に入る中国企業のバッテリー使用量のシェアを合計すると過半に達する。
対抗する韓国のLGが2位、SKが5位、サムスンSDIも6位と健闘しているものの、中国バッテリー企業の快進撃の前に存在感は薄れ始めている(図表)。3年後、韓国と中国の大型バッテリーセルの年間生産能力は、各社の計画を積み上げると、中国が2,168GWh(ギガワット時)で韓国(722GWh)の3倍の水準に達する見通しである。

図表 車載用バッテリー使用量
資料:市場調査会社SNEリサーチ(2021年12月)
まず中国企業の動きを追ってみると、トップのCATLは、2兆4,500億ウォンを投資してドイツに工場を建設する計画であり、4位のBYDも昨年初め4兆5,000億ウォンの資金を調達したのに続き、2兆ウォン規模の有償増資を実施し、投資拡大の構えである。
中国企業に押され気味のサムスンSDIは昨年、世界4位の自動車メーカー・ステルランティス(フランスの自動車メーカーグループPSAとイタリアの自動車メーカーFCAの折半出資)と合弁法人を設立した。
これによりサムスンSDIは、韓国・蔚山(ウルサン)、中国、ハンガリー続きアメリカに2025年上半期から年間23GWh規模の生産拠点を持つことになる。サムスンSDIは、量産化による低価格化を基本戦略としている。
しかし中国が希少資源の重要なサプライチェーンを掌握しているため、どこのバッテリーメーカーも原材料価格の上昇は避けられない。このため輸入価格が高騰しているリチウム、コバルト、ニッケル、マンガンなどの希少金属を再利用することが、バッテリーの価格競争力に大きく影響し、最終的には電気自動車の普及を左右する。
LG化学とバッテリー子会社であるLGエネルギーソリューションは、最近北米最大のバッテリーリサイクル会社Li-Cycleに合計600億ウォン規模の投資をした。
SKイノベーションは、バッテリーのリサイクル事業を推進するために、昨年12月、担当部署を新設した。SKイノベーションは、今年初めにバッテリーのリサイクル試験工場を竣工し、2025年には6万トン規模の工場を稼動する計画である。
サムスンSDIもバッテリーリサイクル会社に投資する一方、韓国内のバッテリーリサイクル企業とのと連携を強めている。
こうした流れがある一方において、希少資源のコバルト(紛争の続くコンゴ民主共和国が世界の54%の産出量)やニッケルを使わないLFPバッテリー電池(リン酸鉄リチウムイオン電池)を中国企業が注目している。
LFPバッテリーは、エネルギー密度がNCMバッテリー(ニッケル・コバルト・マンガンなどの原材料を使用)より低い反面価格が安い。つまり、LFPバッテリーはコバルトやニッケルなどを使わないため、価格を安く抑えられるが、性能面でやや劣る欠点がある。
それでも今年テスラに続きフォルクスワーゲン、ダイムラーも、LFPバッテリーを採用する動きである。SNEリサーチによれば、昨年末テスラが発注した今年のバッテリー使用量55GWh全量を中国・CATL(45GWh)とBYD(10GWh)が受注したと伝えている。
サムスンSDIとしては、長期的な技術開発ロードマップをベースに、中国への依存体質を素材から見直した次世代バッテリーを開発し、技術革新と安全性を確保したうえで量産化できる生産体制に活路を見出そうとしている。