【企業IT利活用動向調査2021】コロナ禍で「働き方改革」加速 クラウドサービス、電子契約の利用が拡大
一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)は今年1月に実施した「企業IT利活用動向調査2021」の集計結果をとりまとめ、コロナ禍において企業の考え方や行動にどのような変化が生じたか分析したレポートを公表した。
同調査は2011年より毎年実施しており、調査対象は従業員数50人以上の国内企業に勤務しIT戦略策定または情報セキュリティに従事する役職者。Webアンケートにより981件(1社1人)の有効回答を得た。
重視する経営課題では、「業務プロセスの効率化」(50.8%)がトップとなり、「従業員の働き方改革」(39.1%)が2位、「情報セキュリティの強化」(38.1%)が3位となった。
「従業員の働き方改革」は2017年以降、重視する経営課題の第2位となっていたが、今回は前回調査より約10ポイント減少している。これは、数度にわたる緊急事態宣言下で在宅勤務やテレワークを導入せざるを得ない状況となり、環境整備・実践が一気に進んだためと考えられる。

働き方改革への取組み状況(2017、2020、2021年調査比較)
86%がクラウドサービスを利用
勤務体制の変更・整備や、テレワークのためのネットワーク環境が整備されるなか、システムのクラウド利用も急速に進んでいる。2011年調査ではまだ自社で情報システムを保有・管理・運用するオンプレミスが主流だったが、2021年調査では85.8%がクラウドサービスを利用していると回答しており、そのうち半分以上クラウドサービスを利用している比率が5割に近づきつつある。

クラウドサービスの利用状況(2021年調査)
オンプレミスに比べ、クラウドシステムの方が導入コスト、運用管理負荷の軽減などの面から導入しやすく、さらにコロナ禍で在宅勤務、テレワーク環境下でのWeb会議やチャット、ファイル共有などのコミュ ニケーション基盤整備が急務となったことが背景にあると考えられる。
クラウドサービスを選定する場合、重点を置くのは 「コスト」(49.2%)が1位で、次いで「セキュリティ認証・認定取得による信頼性の確保」(41.6%)、「セ キュリティの対策」(41.3%)となった。前回調査に比べ、「BCP対応がしっかりしている」「障害対応が明記されている」が4ポイント増加した一方、「コスト」は6ポイント減少している。
電子契約利用率67%、今後は8割以上に
2020年7月に策定された規制改革実施計画には電子署名の活用促進や国、地方公共団体の押印手続きの見直しが盛り込まれており、民間企業においても働き方改革の一環として、事務処理の電子化、押印廃止の動きが進んでいる。
業務プロセスの中で電子化したいという回答が最も多かったのは「経費精算(旅費・交通費)」(38.5%)で、「契約書の締結・保管」が前回調査から約6ポイント増加して2位(37.2%)となった。
電子契約については、コロナ禍の勤務形態の変化に対応し大きな変化が見られる。2020年調査では電子契約の利用率は約4割であったが、今回は合計で67.2%となった。調査時点では「利用していないが、利用するよう準備・検討している」割合が17.7%となり、今後8割以上の利用が見込まれる。

電子契約の利用状況(2021年調査)
電子契約の採用・利用拡大に向けての課題としては、「社内または取引先に新たに導入する手間がかかる」「導入費用または運用費用が高い」が挙げられている。
PPAPによるファイル送信、政府は非推奨
外部への電子ファイル送信手段として、パスワード付きZipファイルを送付して別途パスワードをメールで連絡する「PPAP」が長年利用され、2021年調査でも「Zipパスワードによる暗号化添付ファイル」が45.5%を占めている。しかし、セキュリティリスクを問題視する政府はデジタル改革の一環として中央省庁でのPPAP廃止を宣言しており、今後はクラウド/オンラインストレージを利用したファイル共有などの代替手段が普及していくことが考えられる。
過去1年間に経験したセキュリティインシデントについては、「社内サーバー/PC/スマートフォン等のマルウェア感染」(24.3%)が最も多く、2位は「従業員によるデータ・情報の紛失・盗難」(23.2%)であった。過去2回の調査と比較すると、マルウェア感染、DDoS攻撃、クラウドサー ビス停止による業務中断など、セキュリティインシデントが増加傾向となっている。一方、「インシデントは経験していない」(24.2%)は過去最低となった。
セキュリティ支出については、コロナ禍対策に伴い、実績・計画ともに増加傾向となっている。支出実績で最も高かったのは「セキュリティ関連の認証取得に関する費用」(27.8%)で、次いで「ユーザ認証基盤の構築・強化のための費用」(21.9%)であった。「横ばい」の項目がほぼ5割を占めるなかで、認証取得とセキュリティ製品の導入が増加傾向にある。
このほかにも、レポートでは企業IT化の現状について広範囲にわたり紹介している。
出典:
「IT-REPORT 2021 Spring」(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)