現地報告・英国のコロナ事情(7) 経済-抑えられていたバネが一挙にゆるむ?-

 いろいろな憶測(多くは順当なものであるが)が飛ぶ中で、当然なのは今まで閉鎖されてきた商店や会社の解除に伴って、支援スキームはなくなるだろうということ。次いで生活保護増額もキャンセルされるのではないか。さらに、富裕層に対して所得税その他の税金増額が言われている。

 それに対して盛んに言われるのは、GDP10%の落ち込みと言うが、実際にはその回復はそれほど難しくはないという議論である。英国銀行でさえも、来年は小さいとは言え、1.4%くらいの上昇が可能であると言っている。

 その根拠の一つは、この1年間人々はお金を使うチャンスがなかったから、貯金がたまっている、その額は125ビリオンポンド(約19兆円)にもなるというのである。この巨額の貯金が使われるのを待っている。もちろん、実際には貯金ゼロの家庭もあるだろうが、全体としては、国民がホリデーにも行かず、新しい衣服も買わず、美味しい食事を食べにも行けず、最新の車を買うこともできなかった(したくてもできなかった)、昨年4月から6月までの3カ月だけでも貯金の比率は前年比6.8%上がっている、と英国銀行のエコノミストが言っている。

 そこで、抑えられていたバネが一挙に跳ね上がるように、人々はお金を使って使って使いまくるという議論が一方にあり、他方では、いや、人々は賢くなって、かなりの金額を使わずに貯めておくだろうという意見もある。いずれにしても、間違いなく相当の金額が使われる―旅行に、ご馳走に、衣服に、車に、新しい家を買うのに、と言うのは誰もの言葉である。

 新聞は「私はもう5回の海外旅行を予約したわ」という女性の写真を載せて、さらに彼女は「空港での検査や隔離は困るわ。今年は海外旅行はするな、なんてひどいわ」と続けるのだが。

 もう少し、真面目な話では、政府の財政支援をこの辺で終わらせないと、人々は働いて給与を得る、あるいは収入を得るという働く倫理を忘れてしまうのではないか、という意見の人もいる。確かに、働くことを生きる目標にする日本人とは違って、英国人は遊ぶために働くという人が多いから、それは一理ある意見かも知れない。

 増税に関して言えば、その対象となる富裕層を支持層に持つ保守党は早速に政府反乱軍を組織して、増税反対、ここで増税を強行すれば英国の経済回復は絶対にできないと頑張っている。

新年度予算でもコロナ対策手厚く

 もう一つ指摘するべきことは、人々の消費傾向の変化である。パンデミック以前から若い人の消費傾向は全てにおいて変わってきていた。いいものを長く着る、用いるというのは典型的な英国人の消費傾向だったはずだが、それが急速に変わってきた。

 安くて流行のものを買って、流行が変われば捨てて新しいものを買うというのが若い人の一般的な傾向になった。それは、自分でじっくり選ぶのではなくて、オンラインで見てオーダーする、嫌だったら送り返すという安易なやり方にもなった。このロックダウンの間に古く百年以上続いていたいわゆる老舗名店が何軒か破産したが、多分ロックダウンがなくても同じ運命に陥っていたであろう。

 当然ロックダウンの下ではこの傾向は強まって、買い物に行けないのであるから、オンラインでオーダーして、すぐに配達してもらえなければ、いくら上等な製品でも食べ物でも消費者に嫌われることになった。さらに在宅で、家族内だけで毎日過ごすのであるから、一日中パジャマで暮らしても、ジョギング用のトレイナーでいても、誰も気にする人はいない。それ故、なるべく着心地の良いものが好まれるようになった。食べ物も同様に、簡単で手をかけなくていいものが選ばれた。新聞や雑誌の広告はその手のものばかりとなった。この傾向がロックダウン解除後にも続くという予想のほうが正しいのではないだろうか。

 こうした消費傾向の波に乗れるか否かがハイストリート(高級商店街)商売の決め手になるであろう。実店舗などなくても構わないという商売も成り立つのである

 このように全ての注目を集めた3月初めの予算発表は、意外に、というべきだろう、スムーズに受け入れられた。ある新聞は「スナクの手品」と呼んだし、他の新聞は「魅惑的な泥棒」とまで言ったが、どこからも文句が出なかったのは見上げた政治力と言わなければならない。

 彼が初めに述べたのは、誰もがよく知っていることだった。つまり、このパンデミックをどのようにしてやり過ごすか、それを第一目標にした予算であるということである。今政府が行っている”一時休業”の給与支払いは、そのまま9月まで続ける、フリーランスへの支援、生活保護も現在のまま、所得税、国民保険税も消費税も据え置き。そこで人々は、「ああ、よかった」とほっと溜息をついた。

 そして、爆弾は次に来た。「法人税を現在の19%から25%に上げる」。これは保守党の政策として考えられないものだった。以前、労働党左派が提出して、見事に選挙に敗北した。ただし、法人税の引き上げが行われるのは2023年とする! つまり、ロックダウン解除がスムーズに行って、経済回復の力がつくまではすべて現況のまま、しかし、いったん回復したら、痛ーい増税が待っていますよ、という経済界への予告であった。酒、ビールなどへの課税率増加がないと発表されたときには議会で拍手が沸いたという。

 政府はさらに借金で国を運営しなければならない。その返済には12年から15年が予想されると言われるが、目下はとにかくパンデミックをやり過ごし、ロックダウン解除を目指す以外、国民が救われる道はない。それは誰にも分かっていることなのだ。