とやまの土木―過去・現在・未来(46) とやまとSDGs(その2)

3 SDGsトークカフェと学生

 今年度後半、PECとやまさんは、日本の人間安全保障の問題提起とも関連する、「誰一人取り残さないとやま」をテーマとする連続オンライン・オフライントークカフェ5)を企画され、実施されました。私は工学部環境・社会基盤工学科3年生で私の研究室の配属となった3名の学生とともに、このトークカフェに参加しました。

 イベントのタイトルはSDGsトークカフェ「〇〇でも生きやすい♡これからの富山のカタチ(全6回)」で、富山県南砺市のお寺 光教寺のイベント「SDGs OTERA Café」と一緒にお寺の境内とオンライン同時で開催されました。富山でいきづらさに向き合って活動されている方々がゲストとして話題提供し、状況を学びつつ、参加者が話し合い、これからどうしていきたいかを考えるという内容です。

 対象テーマ―上記の〇〇でも生きやすい、の〇〇にあてはまるもの―は、不登校/ひきこもり、生き物、一人親家庭、障害者、外国人、そして性的マイノリティでした。オンライン参加可能ということで、県外からも参加可能で、私も栃木県の方と意見交換したりもしました。

 3年生後期(年度後半)の専門ゼミと呼ばれるセミナー(演習)として、PECとやまさん(事務局長堺勇人さん、前富山県立大学COCコーディネーター)に引き続き協働先となっていただき、実質4か月15週の授業期間で、次のような課題に取り組むこととしました。

 「誰一人取り残さない」社会の実現と、学生一人ひとりの人生(今までとこれから)との接点を、以下の1~3の活動を通じて何かしら見出し、そのことについて成果発表会で発表し、またPECとやまさんに共有する。最終発表タイトル例は「誰一人取り残さない社会※の実現と私の人生」(※富山やそれぞれの出身の地域・これから暮らす予定の地域などを想定)。

【活動】
1.SDGsトークカフェ~のうちから興味のあるテーマを1つ選び、その富山(および日本)での実態について調査する。
2.SDGsトークカフェ~全てに参加し(オンライン・オフラインどちらでも可)対話する。
3.1、2を経ての気づきを、自身の人生の今までとこれからに引き寄せて考え、誰一人取り残さない社会の実現と自身のこれからの人生との接点についてまとめる。

 3名の学生に、政策研究についての教科書輪読とSDGs概要説明、そしてPECとやまさんや過去の先輩たちの活動などの紹介を行った後、まず自分が取り組むテーマを考えてもらいました。それぞれの個人的理由を添えて、偶然ですが、一人ずつ異なるテーマ(一人親家庭、障害者、そして外国人)を選びました。

 3名のうち一人は南砺市の光教寺会場に行き、オフラインでも参加しました。トークカフェで知ったり考えたりするとともに、これまで自分なりの「状態に関する問い(何がどうなっているのか)」について、政府等ウェブサイト、統計データ、書籍等から学び整理してきました。

 これから、自らの人生の接点に関する問いを作り、それに答えを出し、富山県立大学の地域協働授業成果発表会(2021年1月)で報告する予定です。今年度は、学内外の方々と授業時間内に発表・意見交換するだけでなく、今年4月から利用を開始した大学新校舎(中央棟)の1階アカデミックモールで、1月21日(木)から2月5日(金)までポスターセッションを公開で実施することとなっています。お近くの方で、ご関心お時間おありの方は、今後掲載される富山県立大学ウェブサイトの情報をご確認のうえ、足をお運びください。

 私自身、トークカフェに参加することで、話題提供者の方々や、参加者の方々からいろいろ学び、また自分の日々の考えを整理し、また一個人として、親や教師として、そして研究者として、どうしたいか、どうできるか、考える機会となりました。同時に、参加学生にとって、貴重なつながりの機会となっており、初めて知ることがさまざまにあるばかりでなく、このトークカフェの参加者や話題提供者からさらにいろいろと教えていただいたり、いきづらさを抱える方々を紹介いただいたりしています。地域や社会で起きていることを学ぶとともに、自分を振り返って、そこにどのようなつながりを見い出すか、学生たちにとって一番重要な過程がこれから始まります。

おわりに

 2020年1月の寄稿の際、「おわりに」のサブタイトルは、<わたし>とSDGsでした。本稿を執筆している私は、人類の一員かつ地球の一部としての人間であり、親であり、なりわいとしては大学教員かつ研究者です。

 いのち・暮らし・人生を有する、人間です。その私が、どのように生きよう、在ろう、としているか、SDGsというコミュニケーションツールを使って、特に大学生の教育環境としての<わたし>、とやまのさまざまのSDGs人とつながって教育ができる<わたし>という点に着目して、コロナ状況の本年の状況を紹介してきました。

 「とやまの土木」から連想される事柄からはずいぶん遠い話に終始したかと思いますが、土木と言えば森羅万象と思っていただける読者の方に、なんら得るものがあれば幸いです。ありがとうございました。


1) 実業之富山Web版 とやまの土木―過去・現在・未来(24) とやまとSDGs(2020年12月25日アクセス)
2) PECとやま 環境市民プラットフォームとやま 富山のSDGs(2020年12月25日アクセス)
3) それだけでなく、取材を受けてくださった方(SDGs人)の半生についても(意図せずですがインタビューの自然の流れで)詳しくお伺いし、取材報告で記載したことも、特異なことでした。しかしそれは、「われわれの世界を変革する」を正式名称とするSDGsの考え方からすれば、「生きよう」、「在りよう」にこそ神髄が顕れる、と考えることはむしろ自然であり、それを紹介する部分にもスペースを割きました。
4) この言葉遣いは現在京都大学学際融合教育研究推進センターにいらっしゃる宮野公樹(みやのなおき)さんによるものです。近著に『学問からの手紙』(小学会、2019年)があります。
5) PECとやま 環境市民プラットフォームとやま (2020年12月25日アクセス)

なかむら ひでのり

1972年岩手県生まれ。東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻博士課程修了、博士(学術)。国際協力事業団(現国際協力機構)、地球環境戦略研究機関、名古屋大学大学院環境学研究科などを経て、現職。専門は環境政策、環境ガバナンス、臨床環境学、社会工学。