【三協立山】創立60周年の節目、平能新社長が就任会見 創業理念に立ち返り、国際事業の健全化最優先に

 三協立山(本社高岡市、社長平能正三氏・東京1部)は10月6日、2021年5月期の第1四半期(6-8月)の連結決算を発表した。

 連結営業損益は2億6,000万円の赤字となり、中核事業のアルミ建材(三協アルミ)、マグネシウム合金などのマテリアル(三協マテリアル)、小売店舗用什器・看板などを扱う商業施設(タテヤマアドバンス)、ドイツを主要拠点に自動車・鉄道部材を手掛ける国際事業のいずれも売り上げは前年同期を下回った。ただ、営業赤字は前年同期(赤字4億3,000万円)に比べ赤字幅は縮小した。

 新型コロナウイルスの影響で非開示としてきた6-11月中間期(上期)の業績予想は連結営業利益3億円と前年同期比89.9%減、通期予想でも連結営業利益は前期比85.1%減の3億円とした。あわせて未定としていた今期の中間配当(前年同期10円)を9年ぶりに見送る方針で、下期は引き続き未定とした。

平能正三社長の就任会見、右は黒崎聡副社長

 同社は8月27日開催の定時株主総会後の取締役会で、山下清胤社長が相談役に退き、新社長に取締役専務執行役員の平能正三氏が就任した。平能氏は1982年三協アルミニウム工業入社、ビル事業部ビル建材部長などを歴任し、2018年から取締役執行役員国際事業統括室長兼国際事業代表、現在三協マテリアル社長も兼務する。

 平能社長は9月10日、新任の代表取締役の黒崎聡副社長とともに就任会見を行い、「本年は創立60周年の節目にあたる。得意先、地域社会、社員の三者が協力し発展したいとする創業者の企業理念に立ち返り、新しいスタートとしていきたい」とあいさつ。近年の事業環境・業績推移を説明するとともに、コロナ禍における足元の事業状況と新体制で取り組むべき課題や目指す姿など、経営方針を説明した。

 成長の柱とする戦略は変えないとしつつ、2020年5月期を踏まえ喫緊の課題としてあげたのは、不振の続く国際事業の改革、収益改善だ。

 国内市場の縮小が予想されるなか、収益改善、成長事業・グローバルシナジーの拡大、次なる事業領域の開拓を重点施策として安定かつ成長可能な事業構造への転換を目指してきたが、国際事業はその中でも大きな成長の柱に位置づけてきた。2015年に米国・アリエス社からドイツのアルミ押出事業のSTEP-Gを買収し設立、その後アルミ棒材の製造と販売・加工会社を傘下に収め、現在ドイツ、ベルギーに5工場、中国・天津に1工場のほか、タイにアルミ鋳造の三協立山アロイの海外拠点をもつ。

 2020年5月期は欧州の排ガス規制に加え、新型コロナウイルスの感染拡大で新車販売台数が減少し、完成車メーカーの一時操業停止も重なって、売り上げ構成の大きい自動車部材などが「想定を超えて」(平野社長)落ち込んだ。海外事業売り上げは411億円となり、営業損失は43億円(前期27億円の赤字)と海外事業開始5年から最大の赤字計上を余儀なくされ、国際事業の健全化が急がれる。

 その具体化として今年8月にSTEP-Gのトップを交代させ、現地の管理体制を一新したことを明らかにした。

 2019年に独の自動車大手フォルクスワーゲン(VW)グループから電気自動車「ID.3」向けバッテリーフレームを受注。その後大口受注にも成功、2020年から一部納品を開始したものの、「ソフトウエアの問題で新車販売が延期され、当社の部材供給の立ち上がりも遅れたが、納入数量の増加に合わせた加工ラインを整備している」(平能社長)と説明、具体的な収益改善への戦略は、2021年1月の第2四半期の決算説明で開示したいとした。

 一方、アルミ建材は新築着工戸数の減少傾向が続く住宅サッシ、中低層ビル、エクステリアなど市場環境は依然厳しいとして、換気、断熱窓、清掃のしやすさ、台風などの悪天候に対応した新製品開発による差別化、全国の代理店システムを活用強化しての市場創出、物量、収益の確保を図るとした。

1日で簡単に玄関ドアを取り替えできる「ノバリス 玄関ドア」

 新年度には、1日で簡単に玄関ドアを取り替えできるリフォーム用玄関ドア、約1時間の簡単施工で取り付けられ丸洗いもできる出入り用網戸、スマートフォンなどで操作できるIoT機能のついた電動シャッターなどを新発売。足元では換気、テレワークのための空間づくりの関連商品、宅配ボックスなどが好調だという。今後コロナリスクへの対応商品を強化する。

 また2011年から取り組んでいる独自の促成栽培技術を活かした植物工場システムを大和ハウス工業と2019年に共同開発、アグリビジネスの領域に参入した。

 中低層ビルサッシでは、首都圏の再開発案件の獲得に加え、広範囲のバリエーションをもつ最終工程を組み立てるノックダウン方式をより拡大することで、全国代理店の収益に貢献していく方針だ。

 商業施設事業は商業施設など新規出店減少の影響を受けているが、店舗什器の販売に止まらず、メンテナンス事業を強化することで、ビジネス機会を広げていく方針。例えばコンビニの設備の故障や、車が店舗に突っ込む事故で破損した什器のメンテナンスについて、同社製品以外であっても、全国・24時間体制で対応していくという。

 今年9月には5G(第5世代移動通信システム)基地局用にアンテナモジュールを看板に内蔵した超小型看板アンテナをソフトバンク、日本アンテナと共同開発した(共同特許出願中)。通常の看板設置と同程度の工数で設置できる。多数の基地局の設置が必要となる5Gネットワーク整備に向けて、コンビニエンスストアなどの商業施設や駅、駐車場を活用することで、低コストかつスピーディーな基地局展開が期待される。

5G基地局用“見えない”看板アンテナ

 平能社長は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う悪影響や景気の不確実性により景気回復の軌道ははっきりしない状態が続いているとの認識を示したうえで、「事業環境が厳しくなった部門があっても他の部門で補える、粘り強い企業体質に作り上げ上げていく」とし、さらなる成長に向けて現在保有している技術、販売ルートを活かしながらビジネス領域を拡大し新規事業分野へも前向きに取り組む考えを述べた。