揺らぐサムスン共和国 :電装事業の不振に苦しむサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
2020年9月、ソウル中央地検は李在鎔(イ・ジェヨン)サムスン電子副会長を、資本市場法違反、業務上背任、外部監査法違反などの疑惑で不拘束起訴した。これにより裁判の長期化が見込まれ、大型M&Aや大規模投資など事業再編に関わるトップの意思決定に、再び空白を生む恐れが出てきた。
李副会長が登記理事になって最初に手掛けたビッグプロジェクト電装会社・ハーマン(Harman:1956年設立、買収額80億ドル)の買収(2016年11月)であり、それから約4年経過した。その後、目立つ大型M&Aは行われていない。
司法リスクが再浮上した現在、ハーマンの業績に関心が集まっている。ハーマンの買収後、全社の中でどのようなポジション(売上高、収益性等への貢献度)にあるのか、サムスン電子の半導体や通信技術とハーマンの電装事業がどの程度シナジー効果を生んできたのか、などである。
サムスン電子の業績を俯瞰すると、2020年第2四半期の連結基準で売上高52.97兆ウォン、営業利益8.15兆ウォンを記録した。これに大きく貢献したのは半導体である。新型コロナウィルスの影響で、皮肉なことに第2四半期にはデータセンターやパソコンなどの需要が急増し、メモリーの売り上げが大幅に伸びた。併せて、携帯電話や家電製品も予想を上回り、堅調に推移したことも、全体の高収益に貢献した。
こうした中で問題児となっているのが電装事業のハーマンである。ハーマンは、去年まで四半期ベースで2兆ウォン前後の売り上げを記録していたものの、今年第2四半期の売上高は1兆5,400億ウォンと、前年同期の2兆5,200億ウォンに比べ40%近く急減した。そもそもハーマンの四半期売上高が1兆ウォン台に落ちたのは、2018年第1四半期の1兆9,400億ウォン以来、約2年振りの出来事である。
2020年上半期でみると売上高3兆6,261億ウォン、2期連続の営業赤字で2,800億ウォン、純損失9,340億ウォンに達した。この結果、今年上半期の売上高営業利益率はマイナス7.7%(図表)、純損失率に至ってはマイナス25.8%である。

ハーマンの売上高営業利益率の推移
資料 : サムスン電子年次報告書及び半期報告書(2020.8.14)より作成
この事実は深刻だ。昨年まではハーマンの子会社と系列会社の合計110社の整理に追われていたことが低収益の主因とされていたが、現在68社まで整理が進み、経営の効率化が一段落してからの赤字は、自動車需要の減退や新型コロナウイルスの問題という要因だけではなく、サムスン電子とのシナジー効果に疑問符が付いていることを意味する。
その一例として今年8月、サムスン電子とハーマンが協力して育ててきた自律走行ソリューションのドライブラインスマートマシン(開放型モジュール式プラットホーム)チームが解体されたことが挙げられる。解体に伴い自律走行に携わっていた人材16名も流出した。
中長期的に期待されている領域として、サムスン電子と情報通信技術を駆使して共同開発したデジタルコックピット(Digital Cockpit・自動車内のマルチディスプレイ)なども、新型コロナウイルスにより今年上半期に自動車需要が減少する中、欧州企業、日本企業、中国企業との競争が激しくなり、製品単価も下落する状況に追い込まれている。
買収当初、サムスン電子は自動車部品事業の年間売り上げを2025年には200億ドルとする経営目標を掲げていた。買収前のハーマンの売上高から2倍以上とした目標を設定していた。現状は目標との乖離が広がっている。
ハーマンは、カーオーディオの世界でトップを占め、BMW、ベンツ、フィアット・クライスラーにハーマンのブランドを搭載し、フェラーリ、トヨタ、プジョー、シトロエンにはJBLブランドを使って供給している会社である。
2020年下半期から自動車需要が緩やかに回復するにつれて、電装事業にも光が差し込むのではないかと期待されている。特にデジタルコクピットは、サムスン電子の情報通信技術を融合するインフォテインメント システムを通じて、安全性などドライバーに最適な運転環境を提供するデジタル電装部品であり、自動運転や電気自動車時代を迎えて需要増も見込まれている。
しかしカーオディオ分野でも、Bose、パイオニア、パナソニックなどと激しい競争を展開しており、また消費者向けのオーディオ市場においても、先行企業であるAmazon、Beats、Bose、Ultimate Earsなどとの競合は避けられない。
唯一明るい材料といえば、デジタルコックピットの市場占有率が上昇していることである。しかしデジタルコックピットの生産稼働率が、今年第1四半期の69.6%から第2四半期には31.8%へ低下しており、生産台数を見ても、第1四半期の160万台から第2四半期には80万台以下と大幅に落ち込んでいる。
サムスン電子のIT・半導体技術とハーマンの伝送技術を結合したデジタルコックピットが、AI(人工知能)と5G(第5世代移動通信システム)の事業領域を拡大しながら、来年以降に成長軌道に乗り、開花するかどうか試練の時期を迎えている。