とやまの土木—過去・現在・未来(37) 防災・気象情報の利活用

富山県立大学工学部 環境・社会基盤工学科准教授 呉 修一
「あなたには災害の危険性を知る義務と、自分と家族を守る責任があります」

 2020年も熊本県の球磨川や山形県の最上川などで甚大な洪水災害が生じている。毎年のように洪水災害が日本のいたるところで発生しており、平成30年(2018年)7月豪雨では防災学術連携体1)より「あなたには災害の危険性を知る義務と、自分と家族を守る責任があります」という強いメッセージが出された。中央防災会議2)の平成30年7月豪雨からの提言では、「自らの命は自らが守る」意識の徹底や災害リスクと住民のとるべき避難行動の理解促進、防災気象情報等の情報と地方公共団体が発令する避難勧告等の避難情報の連携などが、提言としてまとめられている。

 本報では、自分と家族を守るためには、「どのような防災気象情報が利用可能で本当に役立ちそうなのか?」を今一度整理してみたい。読者の殆どには既知の情報であり釈迦に説法と思われるが、今一度現状を整理することで今後の台風シーズンなどに備える準備としたい。

まずはハザードマップと過去の土地利用を確認

 自身の地域のハザードマップを確認することは、災害リスクの理解に向けた第一歩である。特に洪水ハザードマップで家屋倒壊等氾濫想定区域(想定最大規模)に指定されている地区は要注意である。洪水ハザードマップに関しては、既に本連載の3回目と23回目に高橋先生、手計先生が紹介しており、土砂災害警戒区域などの土砂災害に関しては、前々報(35回目)で古谷先生が紹介しているのでそちらを是非参照していただきたい。

 洪水ハザードマップに加えて国土地理院の過去の航空写真を確認することで、土地利用の変化を確認することも重要である。以下の図-1は本学周辺の1960年代(左)と2007年(右)の航空写真の比較である。このような比較が簡単に地理院のウェブサイト3)から行えるので、是非確認してみてほしい。例えば、過去に自宅が山や川だったところは水害リスクが高いので要注意である。

図-1 富山県立大学周辺の1960年代(左)と2007年(右)の航空写真の比較(国土地理院HP3)より)
https://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/bousaichirikyouiku_bouken_tochiriyou1.html

どのような防災気象情報が利用可能なのか?

 次にどのような情報が利用可能かを見てみたい。筆者らのグループ4)では、水害時に利用できるウェブ上の情報を整理することで、災害情報を活用するには、1) どこに、どんな情報があるかを事前に把握しておくという情報リテラシー、もう一つは、2) その情報が何を意味して、どのように使うのかという情報リテラシーの二つが必要であることを明らかにしている。

 また、筆者ら5)は、住民を対象としたアンケート調査等を行い、住民の防災情報への理解度等は極めて低いことを明らかにした。情報を利活用するにはまだまだハードルが高く、地域住民への周知や防災教育・訓練の充実が必要と感じられる。

 以下の図-2は、気象庁が整理した防災気象情報とその利活用6)であるが、これを確認していただければ一般の方には理解が難しいのがわかるであろう。例えば、避難勧告と避難指示(緊急)や警報と注意報の違いなど、深刻度が理解しづらいものもあれば5)、高潮など単語の意味が不明な場合などもある。深刻度が伝わる5)とされている大雨特別警報は、発令された時点では避難には手遅れな可能性がある。各個人が防災気象情報の深刻度と段階、それに応じた対応を事前に決めたタイムラインを設定しておくことが重要である。また、今後は避難勧告と指示の統合が検討されるなど、情報発信側の改善努力も続いている。

図-2 危険度の高まりに応じて段階的に発表される防災気象情報とその利活用(気象庁HP6)より)
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/newstage.html

 では具体的には、気象庁等の情報にはどのようなものが存在し利用されているのだろうか。表-1に、平成30年7月豪雨の際に市町村が避難勧告・指示の発令判断に使用した防災気象情報を整理したものを示す7)。土砂災害警戒情報・判定メッシュ情報、今後の雨、気象注意・警報が市町村の判断で最も利用されていたことがわかる。

 また、河川管理者とのホットラインも多く参考にされている。しかし、2017年から提供が開始された洪水警報の危険度分布についてはこの時点では普及が不十分であり、参考にした自治体が多くなかった。次ではこれら新設された洪水警報の危険度分布の利用可能性などに着目してみたいと思う。

表-1 平成30年7月豪雨時に市町村で避難勧告・指示の発令時に参考とされた情報7)
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/sankosiryo4.pdf

平成30年7月豪雨時の富山県の状況

 平成30年7月豪雨時の、富山県の気象情報、特に、「高解像度降水ナウキャスト」、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」、「大雨警報(浸水害)の危険度分布」、「洪水警報の危険度分布」の4つに着目し、これらの情報がどのような状況を示していたかを確認する8)。これらの情報は気象庁HP9)でリアルタイムに公開されている。

 「高解像度降水ナウキャスト」は現在までと今後の雨を、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」は大雨による土砂災害発生の危険度の高まりを示している。「洪水警報の危険度分布」は、洪水警報を補足する情報であり、指定河川洪水予報の発表対象ではない中小河川(水位周知河川及びその他河川)の洪水害発生の危険度の高まりの予測を示しており、洪水警報等が発表されたときに、どこで危険度が高まるかを面的に確認することができる。「大雨警報(浸水害)の危険度分布」は、都市域の内水氾濫や冠水の危険度と理解すべきと考えられる。詳細に関しては気象庁HPを参照して頂きたい。

図-3 2018年7月5日12:00-18:00の高解像度降水ナウキャスト、土砂災害警戒判定メッシュ情報、大雨警報(浸水害)の危険度分布、洪水警報の危険度分布の時系列(気象庁HP情報9)に筆者が加筆)

 図-3に、これらの2018年7月5日12:00-18:00における時系列変化を示す。強い雨域が富山県に停滞していたことがわかる。この強降雨により、全域の土砂災害警戒判定、富山市内の浸水害の危険度分布、富山県内全域の洪水警報の危険度分布の危険度が徐々に上昇している。ここで図-4に、洪水警報の危険度分布を拡大したものを示す。

 この当時、県内の中小河川では、白岩川、大岩川、上市川、栃津川、坪野川、片貝川で避難判断水位に達している。富山県内では、富山、魚津、滑川、立山、上市、舟橋の6市町村が、計約9万1千人を対象に「避難準備情報・高齢者避難開始」を発令し、227人が実際に避難をしている8)

図-4 2018年7月5日16:00-17:00の洪水警報の危険度分布の時系列(拡大版、気象庁HP情報9)に筆者が加筆)

 洪水警報の危険度分布では、ピーク時(17:00)に、栃津川が非常に危険(紫色)から極めて危険(濃い紫色)と示されている。また、白岩川も非常に危険(紫色)から警戒(赤色)で示されている。大岩川、上市川、坪野川、片貝川も警戒(赤色)で示されている。栃津川、白岩川が危険な状況であることは容易に理解できる反面、赤色の河川では紫色に比べて危険度が低いと勘違いする可能性もありえる。

 しかし、全体としてこのような中小河川の洪水の危険度を良好に表現できていると見ることができ、極めて有益な情報と考えられる。このように、気象庁から公表されている洪水警報の危険度分布は、中小河川の豪雨時の危険度を理解するうえで有効な情報となりえる。これらの予測値は流域雨量指数の予測に基づいたものであり、不確実性が存在し、他の複数の大小の出水ケース、他の地域等で更なる検証が必要不可欠である点は注意されたい。

 筆者らの調査結果5)では、上記の情報が存在し利用可能であることを知っている地域住民の数は極めて少なく、今後これらの存在や利用方法などを広くわかりやすく周知することも重要となってくる。

筆者はどのように状況確認しているか?

 筆者は台風や大雨の情報が前日などにあった場合は、気象情報に注意することにしている。大雨注意報や警報などが発令されればウェブページ、スマートフォン、テレビなどで知ることができる。

 この時点でまず確認するのは、上述した「高解像度降水ナウキャスト」、「土砂災害警戒判定メッシュ情報」、「洪水警報の危険度分布」の3つを確認する。警戒情報が高まり黄色や赤色が発生していたら、高解像度降水ナウキャストおよび降水短時間予測で今後の雨を1時間先から数時間先まで確認する。それで今後も強雨の可能性が確認されれば、国土交通省の「防災ネット富山10)」や富山県の「富山防災WEB11)」で河川の水位の変化状況と堤防高までの余裕、今後の予測などを確認する。このように状況を見ていると、洪水氾濫が生じる危険性が高まってくる場所・河川などを大まかに事前に理解することができる。

気象・防災情報を確認してマイタイムラインを作成しよう

 最初に述べた洪水ハザードマップより水平避難が必要と判断される方は、自身のタイムラインを是非作成していただき、どの防災気象情報が発令されたら避難を実施するのかの「トリガー」を、あらかじめ検討しておいていただきたい。逆にコロナ禍では不要不急の避難所への避難はさけるべきであり、例えば浸水リスクの低い個所でマンションなどに住まわれている方は水平避難をする必要は全くないであろう。

 以上、本報告では利用可能な防災・気象情報を、平成30年7月豪雨時の富山の事例などをもとに、紹介した。洪水ハザードマップ、国土地理院の過去の航空写真、高解像度降水ナウキャスト、土砂災害警戒判定メッシュ情報、洪水警報の危険度分布など、利用できるウェブ上の情報を整理することで、1) どこに、どんな情報があるかを事前に把握しておくという情報リテラシー、もう一つは、2) その情報が何を意味して、どのように使うのかという情報リテラシーの2つを備える必要がある。そして「災害の危険性を知る義務と、自分と家族を守る責任」を、どうか果たしていただきたい。

 本報告の内容に関してもっと詳しく知りたい・学びたい方は、図-5の防災教育を本学で実施予定なので、是非お子さまと一緒に気楽にご参加いただければ幸いです。

図-5 洪水災害をVRで体験してみよう!—次世代ハザードマップの利活用—

参考文献
1) 防災学術連携体:西日本豪雨・市民への緊急メッセージ,2018,
http://janet-dr.com/050_saigaiji/2018/050_2018_gouu/20180722_emergencymessage/2018gouu_0722_emessage.html
2) 中央防災会議,平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ:平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について( 報 告 ),2018,
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/index.html
3) 国土交通省国土地理院HP:過去の航空写真と比べて土地利用の変化を調べる,
https://www.gsi.go.jp/CHIRIKYOUIKU/bousaichirikyouiku_bouken_tochiriyou1.html
4) S. Sato, S. Kure, S. Moriguchi, K. Udo, F. Imamura “Online Information as Real-Time Big Data About Heavy Rain Disaster and its Limitations: Case Study of Miyagi Prefecture, Japan, During Typhoons 17 and 18 in 2015” Journal of Disaster Research, Vol. 12, No. 2, pp. 335-346, 2017.
5) 呉修一,千村紘徳,地引泰人,佐藤翔輔,森口周二,邑本俊亮:地域住民を対象とした防災情報の理解度等に関する基礎調査と可能最大洪水を想定した防災対応の提案,自然災害科学,Vol.38, No.4, pp.449-467,2020.
6) 気象庁HP:「新たなステージ」に対応した防災気象情報の改善,
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/bosai/newstage.html
7) 中央防災会議,平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ:平成30年7月豪雨を踏まえた水害・土砂災害からの避難のあり方について( 報 告 ),参考資料4,
http://www.bousai.go.jp/fusuigai/suigai_dosyaworking/pdf/sankosiryo4.pdf
8)呉修一:2018年7月西日本豪雨時の富山県内の気象・防災情報に関して,東北地域災害科学研究,Vol.55, pp.31-36, 2019.
9)気象庁HP:雨雲の動き(高解像度降水ナウキャスト),https://www.jma.go.jp/jp/highresorad/index.html
10)国土交通省HP:防災ネット富山, http://www.hrr.mlit.go.jp/toyama/bousainet/kasen/
11)富山県HP:富山防災WEB,川の水位情報,http://www.bousai.pref.toyama.jp/

くれ・しゅういち 

東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、カリフォルニア大学デービス校、北海道大学、東北大学災害科学国際研究所を経て、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。水工学、防災学などを専門とする。