とやまの土木-過去・現在・未来 (32) 身近なコンクリート構造物の研究(その2)
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授 伊藤 始
本稿では、著者の専門であるコンクリートにまつわる話を述べていきたい。前回から、著者が実施しているコンクリート構造物に関する研究を紹介しています。今回は橋梁を構成するパーツである橋桁と橋脚について取り上げ、それらへのフライアッシュの適用研究について紹介します。
フライアッシュについては、1年前に寄稿した「とやまのコンクリート」で概要を紹介しました。橋梁については、同様に1年前の「コンクリートの劣化と橋梁の維持管理」で紹介しました。橋梁は、橋長2m以上のものだけでも富山県管理で約3,400橋、富山市で約2,200橋、高岡市で約1,200橋、射水市で約500橋あり、県内のいたるところに設置されていて、より身近に感じていただけると思います。
前回と同様に、橋梁の建設や維持管理の技術を地道な研究が支えていること、富山県立大学から発信していることを知っていただければ幸いに思います。
プレビーム桁へのフライアッシュの適用に関する研究
我が国で数多く使われる橋梁の構造形式に、プレストレストコンクリート(PC)構造があります。PC構造は、一般にPC鋼材と呼ばれる棒鋼またはワイヤーで、建設時にコンクリートに圧縮力を加えてひび割れを制御する構造です。このPC鋼材の代わりに、図-1のような鋼製橋桁(鋼桁)の曲げ剛性を利用して圧縮力を導入する構造形式として「プレビーム」という構造形式があります。この構造形式に用いられるコンクリートには、①高い流動性、②早期の強度発現、③鋼桁周囲の鋼材の保護性能が求められました。

図-1 プレビーム桁の製作状況
研究では、③鋼材の保護性能を現在よりも向上するとともに、①高い流動性と②早期の強度発現を実現することを目標としました。そのために、フライアッシュ(FA)を添加したコンクリートを、プレビーム桁に適用することを研究しました。プレビームへの適用に際して要求される性能を考慮して、まずフレッシュ性状(硬化前の性状)と初期強度の両方を満たすコンクリート配合を選定しました。そして、コンクリートの耐久性能として、FA添加による塩分浸透への抵抗性の変化や乾燥収縮ひび割れへの抵抗性の変化を評価しました。次に、実用に向けて、コンクリート工場での製造、施工現場での打ち込みや締め固めの容易さを確認しました。
プレビーム桁に関する研究結果の概要

図-2 スランプフロー試験
プレビーム桁に使用されるコンクリートは、通常のコンクリートよりも流動性の大きい中流動コンクリートが用いられ、その流動性の試験は一般的なスランプの代わりに、図-2のようなコンクリートの広がりを指標とするスランプフロー試験が用いられます。また、プレビーム桁のコンクリートは、生コンクリート工場からプレビーム桁製作工場まで運搬されて打ち込まれるため、時間経過により生じるスランプフローの変化とコンクリートに含まれる空気量の変化を把握することが必要でした。工場間の運搬時間と打ち込み時間を考慮して試験時間を60分に設定しました。
実際の練り混ぜ装置で製造したコンクリートのスランプフローの時間変化を図-3に示します。Nが普通ポルトランドセメント、Hが早強ポルトランドセメント、NFとHFがそれらにフライアッシュを添加したケースです。練り上がり後20分で混和剤の効果が得られ、スランプフローが増加して、60分ではすべてのケースの値が同程度になりました。

図-3 スランプフローの時間変化
図-4に空気量の時間変化を示します。練り上がり直後の空気量は、4.0%から5.0%付近にありました。練り上がり後60分での減少量は、0.3~0.6ポイントと小さくなりました。本研究の高強度FAコンクリートは、実際の練り混ぜ装置での製造においても安定したフレッシュ性状が得られました。

図-4 空気量の時間変化
その他に、加振締め固め試験による流動性と充填性、漏斗試験による材料分離抵抗性では、FA添加の影響が小さくなりました。U形充填試験では、FA添加による粘性の高まりで、自己流動性や充填性が低い傾向にあったものの、加振締り固め性が良いため、加振との組み合わせにより改善できると考えられました。
老朽化した橋梁の架け替え工事が全国的に増えており、プレビーム桁は桁高を抑制できる特性からそれらの工事に多く適用されています。富山県内でも常願寺川や井田川などの数カ所の架け替え工事でプレビームの適用または適用検討がされています。その中には海水作用を受ける環境条件の厳しい場所もあり、フライアッシュを添加して耐久性を高めたFA型プレビーム桁の適用が期待されます。
コンクリート橋脚の温度ひび割れに関する研究
著者は民間の建設会社に在籍していたころに、温度応力解析ソフトの開発に携わりました。DOS版であった解析ソフトをWindows版に改良するもので、各種機能の検証ならびにユーザーインターフェイスの仕様決定を行いました。ソフト開発後に社内の他部署や施工現場からの依頼を受けて温度ひび割れの検討業務を実施しました。ここでは、この温度応力解析ソフトを使用した橋脚の温度ひび割れに関する研究について紹介します。
橋梁の下部を支える橋脚のうち、道路高架橋でみられる壁状の橋脚(壁式橋脚)は、コンクリートの温度収縮を基礎部(フーチング)が拘束することで、大きなひび割れが入りやすい構造物です。壁式橋脚には、ひび割れを抑制する対策としてセメント種類の変更やひび割れを誘発する目地の設置が行われています。
北陸地方では、前述のフライアッシュ(FA)が、この温度ひび割れの抑制を目的に実構造物に適用されています。この場合に、季節やコンクリート配合、構造物の種類や寸法によって抑制効果が異なることが課題になっていました。そのため、季節ごとのFAによる温度ひび割れの抑制効果ならびに、抑制対策の併用による効果を明らかにすることを目標としました。研究では、壁式橋脚を対象に実際の形状寸法と施工条件を与えた温度応力解析を実施しました。
コンクリート橋脚に関する研究結果の概要
本研究では実際の壁式橋脚の形状寸法と施工順序を用いた解析モデルを対象に、3次元温度応力解析を実施しました。橋脚の断面寸法は図-5と図-6のように2.4m×9.68mとし、フーチングを含めた橋脚高さは10.77mとしました。フーチングの高さを1.90m、橋脚1リフトを4.35m、2リフトを4.52mとしました。
FAを添加したケースの温度分布の一例を図-5に示します。分布図は橋脚長手方向の中央断面における最高温度を表しています。最高温度はリフト中心で生じ、1リフトで76.7℃になり、2リフトで76.8℃になりました。
FAを添加したケースのひび割れ指数分布の一例を図-6に示します。ひび割れ指数とはひび割れの発生しやすさを表し、1.0を下回ると50%以上の確率でひび割れが発生するという指標です。最小ひび割れ指数はリフト底部から0.5m程度の高さで生じ、1リフトで1.03、2リフトで0.94であり、FA添加のみの対策では、ひび割れが発生しやすい条件でした。

図-7 季節ごとの最小ひび割れ指数
対策を併用したときの季節ごとの最小ひび割れ指数を図-7に示します。横軸には目地設置による分割間隔を示します。秋ケースと冬ケースでは、打ち込み温度低減と目地設置(2分割)の効果がほぼ同じ傾向でした。それに対して、夏ケースでは打ち込み温度低減の効果は小さく、目地設置による効果が比較的顕著でした。FA添加と打ち込み温度低減の併用ケースにおいて、2分割した場合に最小ひび割れ指数が土木学会の基準値1.40を上回り、3分割した場合に1.85を上回りました。今後、県内のコンクリート橋脚の工事において、この結果を参考にFA添加、温度低減、目地設置の各ひび割れ対策が効果的に適用されることを期待します。
参考文献
1) 伊藤始、栗山浩、窪田一沙、泉谷智之、田島久嗣:実機製造した高強度フライアッシュコンクリートの流動性と材料分離抵抗性に関する検討、土木学会第72回年次学術講演会講演概要集、V-362、2017
2) 吉田萌佳、伊藤始、寺西健太、小松原昭則、橘吉宏:壁式橋脚におけるフライアッシュ添加と打込み温度低減が温度ひび割れ指数に与える影響、土木学会第75回年次学術講演会講演概要集、2020(掲載前)
いとう・はじめ 愛知県名古屋市出身。名古屋大学大学院修了。現在、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授。コンクリート工学や構造工学を専門とする。