2020年版中小企業白書を公表 県内企業2社の取り組み事例紹介
中小企業庁は2020年版中小企業白書・小規模企業白書を取りまとめ、4月24日付で公表した。中小企業・小規模事業者が生み出す価値や、地域の安定・雇用維持に資する取り組みについて調査・分析しているほか、新型コロナウイルス感染症の影響や中小企業・小規模事業者の対応事例についても掲載している。
2019年度の動向として、企業の新陳代謝が進む一方で、労働生産性の高い企業でも廃業が生じており、中小企業の経営資源を次世代の意欲ある経営者に引き継いでいくことが課題となっている。中小企業の目指す姿は多様であり、業績や成長意向も類型ごとに傾向が異なることから、企業の役割や機能を意識した支援が重要としている。
中小企業の取り組み事例として、県内企業では「新たな価値を生み出す中小企業」の事例で北陸テクノ(本社射水市、社長木倉正明氏)、「付加価値の獲得に向けた取引関係の構築」の事例で瀬尾製作所(本社高岡市、社長瀬尾良輔氏)の2社が紹介されている。
【北陸テクノ】産学官連携を通じて新たな分野に挑戦、もみ殻処理炉を共同開発

もみ殻処理炉
同社は工業炉や鋳造機の設計・製作・メンテナンスを行うメーカーであるが、異業種企業や大学と連携することで新たな製品の共同開発に成功した事例として紹介されている。
同社が所在する射水市では毎年3,000トンのもみ殻が排出されるが、2000年以降は野焼きが事実上禁止となり、処分に困った農業従事者は最終的に産業廃棄物として処理せざるを得ず、1トン当たり1万円強のコスト負担を強いられている。もみ殻のリサイクル技術の開発を目指し、2010 年に射水市、JAいみず野、富山県立大学は共同で「もみ殻循環プロジェクトチーム」を発足。同社は、地理的・技術的な観点で研究開発への対応力を評価され、プロジェクトチームのパートナーに選出された。
同社は複数の外部研究者と共同し、高度な炉の燃焼制御技術を基に、有害物質を排出せずに大量のもみ殻を処理・リサイクルできるもみ殻処理炉の開発に成功した。2018年5月、全国初のもみ殻循環施設を建設し、もみ殻の完全リサイクル化に向けた実証を進めている。

もみ殻リサイクル製品
通常の処理温度ではもみ殻に含まれるシリカは結晶化し水に溶けないが、同社は高純度非晶質のもみ殻シリカ灰の生産技術を確立し、ケイ酸肥料の開発に取り組んだ。さらに、プロジェクトチームに参画する外部研究者からのアドバイスにより、工業分野にも進出。弾性率が従来比 1.5倍のゴムマット製品や高強度のコンクリート製品の試作に成功した。現在、鳥取県の製造業者と共に製品化を目指している。
2019年6月、同社は経済産業省「はばたく中小企業300社」に選定された。さらにもみ殻処理炉の実証を進めるとともに、もみ殻灰を用いた製品の商品化を図り、将来的には中国やベトナムなどでも展開していく考え。
【瀬尾製作所】低利益率の受注企業から脱却、ニッチ領域での自社ブランド確立
同社は1935年創業。高岡の地場産業である金属加工を主業とし、大手メーカーのOEM受注企業として神仏具や雨樋の製造加工を行ってきた。かつては高い利益率を確保していたが、バブル崩壊を機に価格引き下げ圧力が高まり、 利益率は悪化していった。大手メーカーから受注していた雨樋の受注量も縮小傾向にあり、先行きに懸念があった。
2008年、 IT業界で働いていた現社長の瀬尾良輔氏が東京からUターンで帰郷してから、低利益率のビジネスモデルからの転身を図るため、自社ブランド製品の開発をスタートさせた。神仏具の市場は近年のライフスタイルや宗教観の変化に伴い縮小傾向にあるが、消費者のニーズに合った製品が開発できれば、同社にとって十分な需要を開拓することができ、新たな市場を形成できると考えた。
デザイナーをパートナーに迎え立ち上げたのが、自社仏具ブランド「Sotto(ソット)」である。一般家庭に仏間がなくなっても大切な人を弔いたいという思いは変わっていないというアイデアから、「現在の暮らしにそっと寄り添う祈りのかたち」をコンセプトに、リビングや寝室に置いても違和感なく故人に祈りを捧げる場を提供する製品を開発した。

グッドデザイン賞を受賞した「Potterin」(左)と「Paddle」(右)
おりん、香立、火立、花立の四つの仏具が一つになったしずく型の仏具「Potterin(ポタリン)」、パドルのような形のリン棒とおりんを組み合わせた「Paddle(パドル)」はいずれもグッドデザイン賞を受賞し、一般消費者への認知度も高まりつつある。これまで製造を手掛けてきた雨樋についても、「雨水をランドスケープの一部に」というコンセプトのもと「SEO Rain Chain」という自社ブランド製品を展開している。
こうした取り組みにより、同社の自社ブランド製品の売上割合は80%を超え、売上高は2010年に比べ約2倍に増加している。瀬尾社長は「中小のものづくり企業が発展していくためには、自社にはないアイデア、デザイン、知的財産、広報、ブランド構築の方法を取り入れて経営にいかしていく必要がある」 と語る。