【YKKグループ2020年度経営方針】「ボリュームゾーンに照準、量の成長」のYKK 「窓の高断熱化」「高付加価値化」で需要創造のYKK AP

 世界72カ国・地域110社で事業展開する、YKKグループ(本社東京、社長大谷裕明氏)は、2020年3月期業績の見込み及び第5次中期経営計画(2017年度~2020年度)の最終年度となる2021年3月期の経営方針を発表した。

 2020年3月期の連結売上高は7,397億円と対前期比3.4%の減収、営業利益(364億円)、経常利益(382億万円)はともに同41%の減益となり、最終利益は半減する。

 ファスニング事業は売上高7.5%減の3,079億円、営業利益は39.6%減の324億円。米中貿易摩擦による世界経済の減速や暖冬の影響で衣料品市場は想定以上に落ち込み、操業度の低下もあって販売数量は3.4%減の97億3千万本にとどまる。

 窓・サッシなどの住宅用、ビル用建材のAP事業も売上高は0.4%減の4,261億円、営業利益は8.1%減の216億円とした。米国、中国、台湾、インドネシアなど海外事業を強化、国内でも樹脂窓を軸にした住宅増改築分野の高断熱化とリフォーム専用品の増販に取り組んだものの、市況価格の変動やIT関連費用など販管費が増え商品価格の改定や製造コストの低減効果でも補えなかった。

 YKK単独では売り上げが7%落ち込み921億円、経常利益、純利益でそれぞれ56億円、61億円の赤字となった。

2021年3月期計画
 3月5日に発表した2021年3月期の連結収支計画では増収増益を見込んでいる。売上高7,495億円と1.3%増収、営業利益で22.4%増益の445億円、純利益で286億円とし、ROA(総資産純利益率)は0.7ポイント改善、2.9%となる。

ファスニング事業
 「2年連続の暖冬による衣料品在庫過多、厚地綿布のブルーデニムの需要減退、さらには新型肺炎の流行など足元を取り巻く事業環境は厳しい」(大谷裕明社長)として、2020年の世界の衣料品市場も引き続き厳しい見方を示した。売上高はほぼ前年並みの3,074億円としているが、営業利益では16.9%増益の379億円を計画。高級ブランドや高機能スポーツアパレル向けだけでなく、カジュアル衣料用などのボリュームゾーンを引き続き最重要領域として位置付ける。

 とくにファストファッション、製造小売業や欧米量販店向けにコスト競争力商品としてアルミ材の表面処理バリエーションの拡充、検針対応のステンレス製スナップのほか、国産オリジナルとしてマグネットの磁力により手元を見ずにファスナーを閉じられる新感覚の開製品を開発(写真)。今年3月に国連気候変動枠組み条約(UNFCCC)事務局が推進するファッション業界気候変動憲章に署名、海洋プラスチックごみを主材料にした「ナチュロン オーシャン ソースト(NATULON OCEAN SOURCED)」など環境配慮型商品を市場投入した。

マグネットの磁力により簡単に閉じられるマグネットファスナー

 またJUKIと共同開発したテープのない新ファスナーを可能にした専用ミシンや、デザイン企画に3DデジタルCADシステムの活用を進め、パキスタンに新たな商品開発室を開設する。世界での開発拠点は全40カ所、開発要員は1,050人体制とする。

 欧米への供給拠点になりつつあるトルコには2020年前半の完成を目標に、エチオピアでは21年春に新工場を建設、ファスナーの生産体制を強化、量の成長に注力し販売数量で100億6,000万本(前年比3.4%増、3億3,000万本の増販)をめざす。

AP事業
 YKK APは今年、創業30年を迎える。「サッシメーカーから窓メーカー」への転換を図りながら省エネ、耐震、防災・減災商品の開発と普及を促進。具体的には、窓の高断熱化や耐風性能の高い樹脂窓を家一棟トータルコーディネイト・省施工化の提案強化、リノベーション市場で防火地域の少ない埼玉・千葉エリアや寒冷地以外でも普及・拡販するため主力商品「APW430」のトリプルガラス化を加速する。

 昨年8月発売の高強度・高水密仕様の窓「エピソードNEO-R」に続き、今年4月に大都市圏で採用可能な、高い断熱性能とクリアなトリプルガラスの樹脂窓「APW 430 防火窓」を発売。業界初の耐熱強化トリプルガラスを採用し、防火設備(EB)として国土交通大臣認定を取得している。5月には取り付け率の低い2階にも設置できる引違い窓の耐風・耐飛来物衝突性能に優れたシャッターを発売する。

耐熱強化トリプルガラス採用の「APW 430防火窓」

 リノベーション市場では防災・減災ニーズに対応した戸建住宅向け後付け耐風シャッター「かんたんマドリモ」を5月に、マンション住宅専用の内窓および中層マンション向け断熱窓「エピソードNEO-LB」をそれぞれ9月に市場投入する。

 また、全国各地のリノベーション事業者とYKK APが連携する「中古戸建住宅の性能向上リノベーション実証プロジェクト」を推進中だ。既存戸建て住宅に「断熱」「耐震」を軸とした性能向上リノベーションを施し、住まいの価値が「窓・開口部」で変えられるかを実証するプロジェクトで、これまで2017年度2物件、2018年度4物件、2019年度5物件の実績をつけた。

戸建性能向上リノベーション実証プロジェクト「信州 小諸の家」 左が施工前、右が施工後(2020年3月竣工)

 海外ではカナダのユニットカーテンウォール企業の株式取得、これまでの住宅用樹脂窓に加えてビル用アルミ建材事業を拡大する。4月1日に吉田建材(深圳)有限公司とYKK AP(上海)ドア&ウィンドウシステムのすべての事業を統合し中国におけるYKK AP建材事業を統括する総合建設システム会社、AP中国社を設立し、製販一体化による経営効率化とブランド力の向上を図る。

 また、台湾、インドネシア、インドなどアジア地域で高級市場での受注強化、改装・非居住分野への参入などで事業拡大し、AP事業の全体売上高で2.6%増の4,374億円を計画。営業利益は製造コストの圧縮や価格改定の浸透効果を織り込み営業利益で239億円と同比10.7%の増収増益を見込む。

設備投資
 21年3月期のグループの設備投資は世界市場の低迷を反映して前年比4・5%減り640億円とした。ファスナー事業はパキスタンの工場増築、黒部市の古御堂工場で20年中旬に建物の建て替えを開始し、物流の自動化や効率化を図るほか、生産設備のFA化推進を主体に339億円。AP事業は今年30周年を迎えるYKKAPの新社屋・YKK AP30ビルを黒部工場内に30億円を投じ建設、19年秋に稼働した東北製造所の新設ラインに続き、埼玉県久喜市の埼玉窓工場で住宅用樹脂窓 「APW330」の生産ラインを増設、ITシステムによる生産・販売を結ぶ基盤整備、また中国・蘇州工場にライン投資、米国でのブランド強化などを内容として230億円を見込んでいる。

 こうしたグループの事業展開を支えるのはYKK黒部事業所に置く工機技術本部。「基盤となる要素技術の強化と進化」を掲げ、ファスナーでは2020年度をスタンダード分野の「高機能」「低価格」に的を絞り「質プラス量」を追求、ファスニング専用のライン設備及び着色技術、材料開発を進める。また、樹脂窓・アルミ樹脂複合窓製造ラインの効率化・省人化のためのYKKAP専用ライン、そのためのロボット活用技術の強化に重点を置く。

 経営計画の発表後も新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続いており、収束の目途は立っていない。経済活動は急速に縮小しているとみられるだけに、同社グループの2020年度計画の進捗に及ぼす影響も無視できない。