とやまの土木―過去・現在・未来(23) 洪水ハザードマップを考える
さて、最後になりましたが、そもそも洪水浸水想定区域図はどのように作成されるのかを簡単にご説明いたします。最新版では、平成27年7月に公表された国土交通省と国土技術政策総合研究所による「洪水浸水想定区域図作成マニュアル(第4版)」に則って作成されます。細かい計算作業は省きますが、上述した2つ降雨量を利用して河川整備基本方針(基本高水)を検討する際に用いた複数の降雨波形や最近の主要な洪水の降雨波形等を、想定する降雨量に等しくなるよう引き伸ばしを行い、それぞれの降雨波形による流出計算(降った雨が地表や地中を通り、河川に流入する量を計算する)を行い、その流量を河川計算に入力します。
大規模災害への備え
河川計算においては、複数の決壊箇所を想定し、1カ所ずつそこから氾濫する様子をシミュレーションします。図2は洪水浸水想定区域図の作成方法の概念図です。例えば10カ所想定されていれば、10回の計算を実施し、10枚の最大浸水深図が作図されるので、それを重ね合わせることで洪水浸水想定区域図が作成できます。想定破堤点については、例えば神通川水系神通川(神三ダムから下流の神通川の本川)では、左右岸合わせて29カ所が想定されています。

図2 洪水浸水想定区域図の作成方法
このように、多くの英知と予算、そして時間をかけて洪水浸水想定区域図が作成され、さらにこの情報を住民に翻訳するような形で洪水ハザードマップや防災マップへと発展しています。しかしながら、いまだに洪水ハザードマップを見たこともなければ、存在も知らないというアンケート結果があります。気候変動にともなう水害の激甚化はすでにシグナルとして出ていると言ってもよい状況です。限られた政府・自治体予算の中で、ハード対策には限界がある一方、洪水ハザードマップの利活用といったソフト対策は、住民の協力次第でより強固になると思います。
将来は、浸水想定区域図を基に土地利用規制を強化することも本格的に検討されることもあろうかと思いますし、少なくとも、宅地建物取引業法の中の重要事項説明に洪水ハザードマップを含むことが望ましいと思っています。
インフラ整備などのハード対策は不可欠であるものの、100%万全にはなりえません。歴史が物語るように、これまで幾多も人知を尽くしたはずのハード対策を自然はいとも簡単に超えてきたことを思い出してください。テレビや新聞等マスコミのインタビューを受けた被災住民が、口をそろえて「初めて経験した」と言っていることを思い出してください。
富山は、平成16年、昭和44年など大規模水害の記憶のある県民はどれくらいいるでしょうか。ぜひ、これをお読みになったら、周囲に聞いてみてください。自然災害が少ない県と胡坐をかくことなく、いつ大規模水害が発生しても良いように平時から準備を怠らないでください。
てばかり・たいち 東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、土木研究所、福岡大学を経て富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。土木工学、水理学、水文学、水資源学を専門とする。