とやまの土木―過去・現在・未来(22) 「令和××年度富山県豪雨災害調査報告書」を事前に想定してみる

今後はどのような防災研究が必要なのか?

 さて、本稿では、もし富山で洪水災害が発生したらどのような対応を行うかを検討してみた。であれば、今後何をすべきか明確ではないか。『令和××年度富山水害調査報告書』を執筆したと妄想し、その中で課題として生じるもの(過去の水害事例とほぼ同じ)を列挙し、それを起こさせないために何をすべきかを考えれば良い。

 例えば、富山の河川で危険な場所はどこなのだろうか? 堤防決壊する場所を事前に明らかにできないか。各河川セグメントの浸透に関する堤防脆弱性指数(福岡・田端,2016)、越水・侵食ポテンシャルなどを評価することで、危険個所を事前に特定するのである。もちろん大変にチャレンジングな取り組みであり、利用可能なデータの精度に応じて、評価結果の不確実性は必ず議論されるべきである。

 また、筆者の研究室では、富山県全河川を対象とした洪水氾濫解析を行っている。図-2に一例として、庄川の洪水氾濫計算結果(尾島ら,2019)と、常願寺川の洪水氾濫計算結果を示す。

図-2 庄川(尾島ら,2019)および常願寺川における洪水氾濫解析結果

 これらの計算では、堤防の破堤個所を推測し、計算を行っている。上述した堤防決壊危険個所の全てを対象として、事前に氾濫解析を行い、水害時にはどのような事態が生じるのかを事前に想定する。このような洪水氾濫計算結果の蓄積と高精度化は言うまでもなく重要であるが、今後は氾濫計算結果をわかりやすく、人々の心に届くように示すこと(全く新しいハザードマップの導入)、これも大事になってくる。

 次に、避難時の課題が多くの水害調査で報告されており、これらが富山にもあてはまるものとして、対策を考える必要がある。図-3に、富山市の神通川沿いの住民や宮城県大崎市の渋井川沿いの住民を対象としたアンケート調査結果を示す(呉ら,2020)。洪水土砂災害ハザードマップを見たことがある人は、富山市の神通川沿いでは6割を超えており、神通川の河川沿いであることもあり意識の高さや、富山市がハザードマップの全戸配布などの努力の結果と感じられる。

図-3 ハザードマップや避難情報に関するアンケート調査結果(呉ら,2020)

 しかしながら、情報名称の「避難勧告」の深刻度に関しては、2番と3番が同程度の回答となっており(正解は2番。避難指示(緊急)、避難勧告、避難準備情報・高齢者等避難開始の順で深刻度が高い)、意識は高いが避難情報の理解度は、宮城県大崎市と大差がないという結果となっている。

 このように避難情報の意味が明確に伝わらないのであれば、意味の明確化・勉強会、情報伝達経路の再度の確認など、行えることは多々ある。富山市の全域で行うのは大変であるが、呉ら(2020)で提案しているように、例えば河川沿い1kmのみを対象として区域を限定してパンフレットを配布するなどを行えばその労力は激減できるであろう。

 その他にも、筆者は、富山県での最悪の洪水被害(可能最大洪水氾濫・被害)を事前に想定することや、富山県全河川を対象とした、かなりのリードタイム(6, 12, 24時間前など)を含む洪水氾濫予測システムの構築・稼働を行っている。富山で水害が生じた場合は、富山県立大学、特に当研究室は即座の対応をとる。が、しかし、このような事態が生じないような研究、10年後、20年後の災害を防ぐために今行うべき研究、これが学術機関には今現在求められている。

 末尾ですが、台風19号などで被災された方々に心よりお見舞いを申し上げますとともに、本災害による犠牲者に深く哀悼の意を表します。被災された方々の住宅、農地などの生活基盤が早期に復旧することを心よりお祈りしております。

参考文献
東北大学 災害科学国際研究所HP: http://irides.tohoku.ac.jp/
富山県立大学 河海工学研究室HP: http://www.pu-toyama.com/
土木学会水工学委員会 水害対策小委員会 水害調査法WG:水害調査ガイドライン(案)
https://www.rs.noda.tus.ac.jp/hydrolab/guideline/
呉修一,千村紘徳,地引泰人,佐藤翔輔,森口周二,邑本俊亮:地域住民を対象とした防災情報の理解度等に関する基礎調査と可能最大洪水を想定した防災対応の提案,自然災害科学,Vol.38, No.4, 印刷中,2020.
尾島由利香,呉修一,石川彰真,B. A. Priyambodoho,丸谷靖幸:庄川における降雨流出・洪水氾濫解析と可能最大洪水時の利賀ダムの影響評価,土木学会論文集G(環境), Vol.75, No.5, pp.I_281-I_287, 2019.
福岡捷二,田端幸輔:堤体基礎地盤の透水性・堤防強化対策を考慮した堤体内非定常浸潤線解析法の開発と堤防破壊危険確率の低減効果の見積りに関する研究,河川技術論文集,第22巻, pp.261-266, 2016.

くれ・しゅういち 

東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、カリフォルニア大学デービス校、北海道大学、東北大学災害科学国際研究所を経て、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。水工学、防災学などを専門とする。