揺らぐサムスン共和国:多角化に課題を残すサムスン電機
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
サムスン電機はサムスングループを代表する企業であり、サムスン電子を支える重要な電子部品企業でもある。サムスン電子の規模と比較すれば、売上高、営業利益ともにサムスン電機は30分の1前後である。
今このサムスン電機に変化が訪れている。従来から指摘されていたが、安定した成長軌道に乗るためには、サムスン電子への過度な依存から脱却して多角化を進めることであるが、今年に入り再びサムスン電子への依存が高まっている。

図表① サムスン電機のサムスン電子(系列会社を含む)への依存度
資料 : 金融監督院電子公示システムより作成
金融監督院電子公示システムによれば、今年上半期のサムスン電機の売上高(連結基準)は、サムスン電子(系列会社を含む)との取引が再び50.5%と半分を超えている(図表①)。
サムスン電子のスマートフォンが販売好調であれば、サムスン電機の売り上げも上昇するが、スマートフォン市場が成熟期であるとともに中国企業の追い上げにあって市場を失いつつある現在、スマートフォン関連の収益低下は避けられない情勢だ。

図表② サムスン電機の売上高および営業利益の推移
資料 : サムスン電機・四半期報告書(2019.11.14)より作成
2019年1-9月期の売上高営業利益率は8.9%と順調にみえるが(図表②)、売上高と営業利益を前年同期比でみると、売上高は2.7%増となったものの、営業利益はマイナス29.5%と落ち込んでいる。
第3四半期(7-9月)では、前年同期比で売上高はマイナス3.8%、営業利益に至ってはマイナス59.5%と大幅に減少している。第3四半期の売上高営業利益率も前年同期の18.8%から7.9%に急降下している。
サムスン電機は大きく3つの事業部からなる。コンポーネント ソリューション事業部は、積層セラミックコンデンサ(以下MLCC)、インダクター、チップレジスターなど、モジュール ソリューション事業部は、カメラモジュール、通信モジュールなど、基盤ソリューション事業部は、半導体パッケージ基板、高密度多層基板などを生産している。
売上高構成では、コンポーネント ソリューション事業部とモジュール ソリューション事業部が4割前後、基盤ソリューション事業部が2割前後を占めている。
3事業部の中で、基盤ソリューション事業部の売り上げ構成は減少傾向にある。スマートフォン用の高密度プリント基板(HDI)事業は、台湾企業に加えて中国企業の進出が目覚ましく、価格競争が激しさを増している。
基盤ソリューション事業部は、2014年以降赤字基調で推移しており、今年1-9期も128億ウォンの赤字を計上している。これまでの累積営業損出は5,425億ウォンに達していることから、サムスン電機は今年4月、パネルレベルパッケージ(PLP/社員600人)事業をサムスン電子DS部門に7,850億ウォンで売却し、下半期には赤字幅が大きかったHDI生産ラインを釜山(プサン)工場からベトナムに移転することで、黒字転換への道筋を模索している。
モジュールソリューション事業部は、スマートフォン、スマート家電、セキュリティ、自動車などのカメラモジュールとモバイル機器や5G超高速通信など通信モジュールの2事業から構成されている。今年1-9月までは好調な業績を残しているが、5Gスマートフォンなどの高速通信機器市場の拡大テンポに大きく左右される。
事業部の中で高い収益を獲得してきたのがコンポーネントソリューション事業部である。昨年は全社のすべての営業利益を叩き出し、今年1-9期も全社のほぼ7割の営業利益をもたらした。同事業部の売り上げと利益の中核部品がMLCCである。
サムスン電機にとって主力事業のMLCCは、最新のスマートフォン1台に約1,000個使われる。このためサムスン電子のスマートフォン販売に影響を受け、プレミアム 製品ギャラクシー ノート10、フォルダブルフォン(折りたたみスマホ)、5Gスマートフォン、中低価格製品ギャラクシーAシリーズの売れ行き如何が、来年以降も収益動向を左右する。
サムスン電機が今後の事業として大いに期待しているのは電装用MLCCで、高品質・高信頼性が求められる高付加価値製品で、自動車1台に1万個以上使われる。年末には電装用MLCCに特化した天津新工場が本格稼働に入る。
サムスン電機はこの電装用MLCCの売上高を今年全体の10%に引き上げ、5年後には全社の35%とする目標を掲げている。サムスン電機の電装用MLCCの売り上げが拡大するならば、サムスン電子のスマートフォン関連事業に偏重した経営体質から脱却し、独自色を前面に出した事業戦略に転換していくことになろう。