とやまの土木―過去・現在・未来(19) コンクリートの非破壊試験-衝撃弾性波法の更なるそして秘めたる可能性
富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授 内田慎哉
前回は、コンクリートの非破壊試験の一つである衝撃弾性波法の理論と実際について述べました。今回は、「衝撃弾性波法の更なるそして秘めたる可能性」について、お話させていただきます。
1.非破壊試験の位置付け

図1 非破壊試験の位置付け
コンクリートに限らず、例えば医療分野においても、聴診器やX線、CT等、各種様々な非破壊試験があります。いずれも、「スクリーニング検査」としての位置付けで使用される場合(例えば、聴診器)と、「精密検査」として利用される場合(例えば、X線CT)のどちらかになります(図1参照)。コンクリート分野もまさに同じであり、研究・開発・実務においては、図1を常日頃から意識しておくことが極めて重要です。本稿では、「スクリーニング技術」としての衝撃弾性波法について、最新の事例を2つ紹介します。
2.壁面走行ロボット

左:写真1 壁面走行ロボットの概要(駆動系) 右:写真2 壁面走行ロボットの概要(測定系)
写真1に壁面走行ロボットを示します。全長665mm×全幅520mm×全高487mmで、質量は5.6kgあります。このロボットには、自重用プロペラが1個、吸着用プロペラが2個、走行用車輪が4個、それぞれ搭載されています。
自重用プロペラは、壁面走行ロボットの自重をキャンセルするためのものです。一方、吸着用プロペラは、壁面走行ロボットを壁面に押し付ける役割があります。また、走行用車輪は、壁面を走行するためのものであり、駆動方式は4 Wheel Steering(4WS)です。いずれもバッテリで駆動するシステムになっており、地上から送信機により遠隔で操作が可能です。
壁面走行ロボットには、走行中に壁面のひび割れ等をリアルタイムに観察するためのカメラも設置しています(写真2参照)。このカメラでは、約1200万画素の静止画像および4K動画の撮影が可能です。また、壁面走行時のロボットの振動を考慮して、手ぶれ補正機能が付与されております。撮影した静止画像および動画は、5.7GHz帯ビデオ無線伝送システムにより、地上に設置した7inch LCDモニタで、走行中にリアルタイムで常時確認することが可能です。さらに、打撃ハンマ・接触型振動センサユニットも搭載しております(写真2参照)。

写真3 打撃ハンマおよび接触型振動センサユニット
打撃ハンマには、直径16mmの鋼球を使用しています(写真3参照)。一方、接触型振動センサには、加速度センサ(周波数範囲(±3dB):1.5~16000Hz)を使用しております(写真3参照)。このユニットと波形収録装置は、有線LANで接続しています。波形収集装置には鋼球打撃をするためのスイッチも付与しており、打撃を遠隔で行うことができます。
3.調査事例

写真4 調査対象構造物
写真4に対象構造物を示します。対象は富山県立大学学生会館であり、2019年8月には取り壊わしが確定している2階建ての建造物です。
写真5に壁面走行ロボットによる外壁調査状況を示します。壁面走行ロボットを地表面側から2階方向へ走行させながら測定を行いました。調査項目は、カメラによる外観目視および打撃ハンマ・接触型振動センサユニットを利用して衝撃弾性法による内部空隙の探査としました。

左:写真5 壁面走行ロボットによる外壁調査状況
右:写真6 4K動画の映像からスナップショットした静止画(壁面の状況)
写真6に走行中に撮影した4K動画の映像からスナップショットした静止画を示します。また、図2に代表的な2ケースの時刻歴波形を示します。両図を比較すると、図2 (b)に示す波形は、周期性があり、しかもその周期は極めて長いことから、たわみ振動であることがわかります。これより、図2 (b)は内部空隙有り、図2 (a)は内部空隙無しと推定できます。

図2 時刻歴波形
4.打撃試験方法
衝撃弾性波法は、第1回の記事で説明したとおり、ハンマや鋼球打撃によって弾性波をコンクリート内部へ入力し、コンクリートを伝搬した波動を振動センサで受信して得られた信号から、指標値として弾性波伝搬時間、振幅、周波数等を算出し、コンクリート部材の品質や厚さ、部材内部の空隙を評価するものです。著者も含めて、衝撃弾性波法に関する既存の研究や実務においては、上記に示すとおり、ハンマ等はあくまで弾性波の入力に用いるのみでした。しかしながら、ここ数年、コンクリートを鋼球で打撃した際の衝撃現象に着目することで、コンクリートの表層品質や劣化の程度が評価できる可能性があることがわかりつつあります。そこで、ここでは、この方法についての理論と適用事例について紹介します。

左:写真7 ハンマヘッドに加速度センサを内蔵したハンマ
右:図3 打撃波形
ハンマヘッドに加速度センサを内蔵したハンマ(写真7参照)でコンクリート表面を打撃すると、図3に示す波形を得ることができます。図中に示すV1(打撃速度)は、ハンマがコンクリート表面に衝突した時刻T1からコンクリートの抵抗を受けてハンマが停止する時刻T2までの時間(打撃時間)において加速度を打撃時間で積分した値です。一方、V2(反発速度)は、T2からハンマがコンクリートの反発力を受けて加速度がゼロとなる時刻T3までの時間(反発時間)において加速度を反発時間で積分した値です。コンクリートは完全弾性体ではないため、V1とV2は異なる値となり、V1には塑性変形分が含まれ、V2には塑性変形後の弾性変形のみが反映された値となります。
(1)
一方、あまり聞き慣れない振動用語として、機械インピーダンスZがあります。機械インピーダンスは、式(1)によって定義され、ハンマヘッドがコンクリートに衝突したときに、発生した力Fとその結果生じる力と同じ方向の速度Vの比となります。

図4 コンクリートと打撃体の衝突モデル
ここで、コンクリート表層部分が完全弾性体と仮定し、質量Mのハンマヘッドが速度VAでコンクリート表面に衝突する現象を考えます(図4参照)。ハンマヘッドの衝突によってコンクリートに弾性変形が生じると、エネルギー保存の法則から、
(2)
が成立します。ここで、k:コンクリートのバネ係数、d:ハンマヘッドの衝突によって生じるコンクリートの変位です。また、コンクリート表層部分を完全弾性体と仮定しているため、フックの法則により次式が成立します。
(3)
式(3)をdについて解き、これを式(2)に代入し整理すると、
(4)
が得られます。ここで、Fの添字maxは、最大値であることを示しています。式(1)と(4)より、Mkの平方根が機械インピーダンスの物理的意味であり、コンクリート表層部分の機械的な動きにくさを示す指標となります。ただし、前述のとおり、打撃によりコンクリート表層部分は塑性変形をするため、機械インピーダンスとしては、貫入過程の速度V1を用いた機械インピーダンスZA、反発過程の速度V2を用いた機械インピーダンスZRがそれぞれ定義されます。これらの算出式を以下に示します。
(5)
(6)
ここで、Fmax:最大打撃力、Amax:最大加速度、A(t):打撃力波形です。なお、式中のベキ乗値1.2は、速度補正係数です。
5.火災で劣化したコンクリート
火災で劣化したコンクリートを模擬するため、長さ900mm、幅900mm、厚さ300mmのコンクリート試験体を5体作製し、図5に示すガス加熱炉で、コンクリート表面の温度が110、300、500、700℃となるように試験体をそれぞれ加熱しました。ただし、比較のため、残り1体の試験体は未加熱としました。

図5 ガス加熱炉による試験体の加熱状況

図6 機械インピーダンスZRと加熱温度との関係
図6に、機械インピーダンスZRと加熱温度との関係を示します。未加熱および110℃に加熱した試験体は概ね同じ値になっておりますが、300℃以降の機械インピーダンスZRは、加熱前の値よりも小さくなりました。また、300℃よりも加熱温度が高い領域では、加熱温度が大きくなると機械インピーダンスZRが線形で小さくなっていくこともわかりました。
式(4)から明らかなとおり、機械インピーダンスはコンクリートのバネ係数を反映した指標です。したがって、加熱によりコンクリート表層部分の弾性係数が低下し、その結果、機械インピーダンスZRが小さくなったと考察できます。以上のことから、加速度センサを内蔵したハンマでコンクリートを打撃する簡易な測定方法ですが、機械インピーダンスにより、火災により劣化したコンクリートの状態を評価できる可能性があることを明らかにしました。
以上で2回連続の記事は終了となりますが、必要に応じて、第1日目の記事についても振り返ってお読みいただくことで、衝撃弾性波法に関して幅広く見識を深めていただき、構造物の調査等の実務の場面で活用いただけることを期待して、本稿の結びにしたいと思います。
謝辞
壁面走行ロボットは、公立大学法人富山県立大学重点領域研究遂行支援の援助を受けて製作いたしました。また、その開発にあたっては、日東建設久保元樹氏ならびにボーダック太田宝得氏にご協力いただきました。ここに記して謝意を表します。
うちだ・しんや 埼玉県出身。岐阜大学大学院修了。現在、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。社会基盤メンテナンス工学、非破壊検査工学、コンクリート工学を専門とする。