揺らぐサムスン共和国 :〝中国脱出〞を加速するサムスン電子
国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢
〝中国脱出〞を加速するサムスン電子
サムスン電子がこれまで中国で築き上げてきたサプライチェーンが崩れ始めている。この背景には、米中貿易摩擦の影響から中国で組み立て生産した製品を米国に輸出するとき追加関税が現実化したこと、中国の賃金上昇が生産コストを押し上げていること、中国消費市場に陰りがみられることなど、中国のビジネス環境が急速に悪化していることが挙げられる。
サムスン電子の〝中国脱出〞はすでに昨年から始まっていた。サムスン電子は昨年5月と12月に深圳と天津の通信設備および携帯電話工場を閉鎖したのに続き、今年2月に広東省・恵州(1992年設立)の携帯電話工場も生産縮小およびリストラを実施していたが、この恵州工場も年内の閉鎖が確実とみられる。
携帯電話市場は世界的に飽和段階を迎えており、サムスン電子も2013年に約5億台生産していた時期から、現在は年間約3億台のペースに減少してきた。中国の工場を閉鎖し、生産拠点はベトナムとインドにシフトしている。
携帯電話のシェア急落に伴い、サムスン中国法人(SCIC)の売上高は、2013年25兆6,058億ウォンのピーク時から毎年減り続け、2018年3兆2,770億ウォンまで減少した。わずか5年間で売上げは8分の1に激減した。
2019年上半期(1-6月)の売上高及び純利益は、それぞれ1兆7,136億ウォン、1,711億ウォン、売上高純利益率が10.0%と前年同期の売上高2兆115億ウォン、純損出925億ウォン、売上高純損失率マイナス4.6%であったことと比較すれば、改善しているといえる。しかし収益が短期間に乱高下していることは、中国事業が不安定な経営環境に置かれていることを如実に物語っている。

図表① サムスン電子の中国におけるスマートフォン市場占有率の推移
市場調査会社ストラテジーアナリティックス(SA)によれば、2019年第1四半期中国スマートフォン市場で、サムスン電子は100万台を出荷して占有率1.1%を記録したことで、中国で1%台占有率を4四半期ぶりに若干回復したものの、第2四半期には再び0.7%に低下している(図表①)。
サムスン電子にとって、携帯電話市場ではアップルや華為と競合関係にあるが、半導体などの重要な輸出先でもある。中国に残っている主力事業は、西安と蘇州の半導体工場と流通販売網だけである。米中貿易摩擦の影響を回避するために、米国向け半導体輸出を中国国内の華為などに振り替えている。
サムスンの半導体事業も、2019年7月、日本政府が輸出許可取得の手続きが簡素な「包括輸出許可制度」の対象から韓国を除外し個別の許可制としたことから、先行きに不透明感が漂い始めている。
対象となった3品目は、シリコンウエハーの表面の洗浄などに使う高純度フッ化水素(エッチングガス)、半導体の回路パターンの転写に用いる感光材(フォトレジスト)、有機ELパネルなどの絶縁材や耐熱材に使用されるフッ化ポリイミドである。
サムスン電子では高純度フッ化水素の在庫は、毒性が強いことと長期間の保存が難しいことから4カ月程度であるといわれ、申請から個別審査を経て許可されるまでに仮に最大90日間かかったとすれば、半導体の生産に支障が起こらないとも限らない。
ただし、サムスン電子の西安半導体工場が6月中旬に申請していた感光材1件は8月に輸出許可され、高純度フッ化水素も手続きを踏んで日本政府の輸出認可を受けている。

図表② サムスン電子の中国における売上高推移(単位 ウォン)
問題は半導体需要そのものの減退であり、価格の下落である。半導体などを生産するサムスン中国半導体法人(SCS)などの売上高も、金融監督院電子公示システムによれば、サムスン電子の今年上半期の中国市場における売上高は、17兆8,139億ウォンにとどまり、昨年同期の27兆4,102億ウォンより35%減と約10兆ウォンも減少した(図表②)。
世界的にメモリー系半導体が供給過剰で価格下落に歯止めがかからず、そうした中で中国の半導体メーカーの量産化が軌道に乗りつつあり、サムスン中国半導体法人(SCS)も、携帯電話同様、事業環境に明るさを見出すことができない。