【ゴールドウイン】構造タンパク質素材を使った世界初のアウトドアジャケット スパイバーと共同開発

 ゴールドウイン(本社東京、本店小矢部市、社長西田明男氏)と、新素材開発を手掛けるバイオベンチャー・スパイバー(本社山形県鶴岡市、社長関山和秀氏)は、2015年から研究開発に取り組んできた構造タンパク質「ブリュード・プロテイン」を使った世界初となるアウトドアジャケット「MOON PARKA(ムーン・パーカ)」を12月12日から数量限定で発売する。購入申し込みを受け付けており、限定50着を抽選販売する。

 「ブリュード・プロテイン」は主原料を石油などの化石資源に依存しない、スパイバー独自の発酵過程で生産される構造タンパク質。構造タンパク質を生体内で合成するために必要な設計図となる遺伝子を独自にデザインし、それを微生物に導入して合成している。生産方法は、微生物のエネルギー源となる糖類やミネラルを大規模なタンクに仕込み、微生物の数を大量に増やして培養。その後、微生物と構造タンパク質を分離して純度を高め、精製し、乾燥させた状態で繊維やフィルムなどの各種素材に加工するという。

 今回販売する「ムーン・パーカ」は3層からなる生地の表側にこの構造タンパク質「ブリュード・プロテイン」を100%使用。表地の中間層には防水透湿ラミネートを、中綿にはゴールドウインが展開するブランド「THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)」の頂上商品群「サミットシリーズ」の防寒ジャケットでも採用実績のある900フィルパワーのクリーンダウンを使い、防水・透湿・保温性を確保した。

 裏地は月面着陸に成功したアポロ11号が撮影した地球の柄を配置。色はムーンゴールドで、冬のアウトドアシーンからタウンユースまで幅広く使えるシンプルなデザインに仕上げた。商品名は「困難だが実現すれば巨大なインパクトをもたらす壮大な挑戦」の意味でつかわれる「ムーンショット」に由来して名付けたという。

 「ムーン・パーカ」は価格が15万円(税別)。サイズはユニセックスでS、M、L、XL。特設ウェブサイトで10月31日14時まで購入申し込みを受け付けている。

「ムーン・パーカ」の開発経緯 

 現在、スポーツアパレルの多くはポリエステルやナイロンなど原料が石油由来の合成高分子材料を使っている。ゴールドウインは地球環境への課題解決に向けたビジョンを共有しようと2015年、持続可能な資源をベースとした新素材開発を手がけるスパイバーと共同開発をスタート。当初は天然の構造タンパク質素材であるクモ糸を再現し、アパレル製品への応用を目指していた。

 クモ糸は高い強靭性を持ち、水にぬれると数十%の収縮を起こす「超収縮」の特徴をもつ。スパイバーが開発を進めていた構造タンパク質素材「QMONOS(クモノス)」もこの天然のクモ糸がもつ超収縮の特性を引き継いでいたが、この影響で製品が水にぬれた際の寸法安定性をコントロールすることが難しいことが分かった。そのため、天然のクモ糸の遺伝子解析を進め、超収縮を生み出すアミノ酸配列の特徴を推定し、配列中から取り除いた。

 また微生物内で高い生産性を実現させるための大規模な配列改変を行い、新たな遺伝子を設計。分子レベルの改良を繰り返した結果、水に濡れた場合でも高い寸法安定性を維持する新たなタンパク質繊維の開発に成功した。当初の構造タンパク質素材「クモノス」のアミノ酸から大きく変化していたことから、名称も変更し、微生物による発酵という製造工程の特徴に由来する「ブリュード・プロテイン」に改めた。

 スパイバーは慶應義塾大学修士課程修了生らがバイオベンチャーとして2007年9月に設立。以来、総額300億円以上の資金を調達し、現在タイに世界最大規模のブリュード・プロテイン生産拠点の建設を進めている。ブリュード・プロテインはアパレル分野の脱マイクロプラスチックや脱アニマルのニーズに応えられるほか、輸送における軽量化にも対応できることから、今後大きな役割が期待される。