とやまの土木-過去・現在・未来(13) 富山の海を対象とした調査と未来のエネルギー資源

富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授 畠 俊郎

 新しいエネルギー資源として注目されているメタンハイドレートですが、富山周辺の海域にも存在していることをご存知でしょうか?

 富山県立大学大学院環境工学専攻では2015年度から年1回の頻度で学生とともに富山から新潟にかけての海域を対象とし、富山湾を含む日本海への理解を深める実習を行っています。この海洋実習の一項目として、日本海の表層型メタンハイドレートを対象とした調査、ピストンコアラーを用いたサンプル採取に取り組んでいます。採取したサンプルの一部はエネルギー資源開発における課題解決に役立つ、新しい「富山発の建設技術」の実用化に向けた検討を進めています。

 ここでは、学生達が主体となって取り組んでいる海洋実習の概要と、メタンハイドレートを対象とした新しい技術開発に関する取り組みをご紹介します。

海洋実習の概要

 本学では、例年5月に長崎大学水産学部附属練習船共同利用プログラムを利用し、富山周辺の日本海を対象とした航海実習を2泊3日で実施しています。2017年度に行った海洋実習の航路と、2019年度の航海で船から見た日本海の日の出(ちょっと時間が遅かったですが)を図-1に示します。

図-1 2017年度海洋実習航路図と長崎丸からみた日本海の夜明け

 調査項目は、1)河口周辺を対象とした水質および堆積物調査、2)富山湾内を対象とした海底地形・地質調査、3)富山から新潟にかけての表層型メタンハイドレート調査、となります。ここでは、特に表層型メタンハイドレートに関連した調査について説明します。

 日本海に多く分布しているとされる表層型メタンハイドレートは、地中の深い所から海底面に向けて供給されるメタンガスが海底表層付近で塊状のハイドレートとして形成されたものです。この表層型メタンハイドレートが形成される海底面周辺は、他の海域と比較して生物が利用可能な栄養素が多く含まれている可能性があります。そのため、エネルギー資源開発と海洋資源保護、さらには開発に伴う地盤の乱れを抑制することを目的とした調査・研究および教育に取り組むこととしました。

サンプリング状況

 船上では、事前に行った調査の結果から表層型メタンハイドレートの存在が示唆された地点を対象とし、ピストンコアラーを用いたサンプリングと、ドレッジによる表層付近に生息している生物の採取を行っています。

図-2 表層型メタンハイドレートおよび生物サンプル

 ピストンコアラーによるサンプリング状況、回収された表層型メタンハイドレートおよびドレッジで回収された生物を図-2に示します。ピストンコアラーの採泥管は全長4mありますが、海底から洋上に回収する際の圧力変化などによりメタンハイドレートが分解するため、実際に回収できるサンプル量はごく少量となります。生物サンプリングは「ドレッジ」と呼ばれる器具を用いて表層の底泥内に生息している生物を回収します。

 例として図-2に示したシンカイヒバリ近縁と考えられる生物は表層型メタンハイドレートが確認された地点周辺で多く回収されます。このことからも、表層型メタンハイドレートが存在する海域は豊かな生態系が形成されていると考えられます。

メタンハイドレートからのメタンガス生成時の課題と解決に向けた取り組み

 日本近海に存在する新たなエネルギー資源として注目されているメタンハイドレートからのメタンガス生産技術の実用化では、1)投入エネルギーに対する回収エネルギーの比率を可能な限り高めることで、陸域産出と同等もしくはそれ以上の効率を得る、2)生産等の人為的活動に伴う周辺環境への影響を可能な限り小さくする、ことが重要と考えられています1)。 この中で、人為的活動に伴う周辺環境への影響を可能な限り小さくしつつ、周辺地盤の安定性を確保する技術として、対象地盤中に生息している微生物の機能を建設工事に応用することに着目しました。

図-3 微生物固化技術の概要

 深海底にすでに生息している微生物を活用した地盤改良技術の概念を図-3に示します。無対策(現状)では塊状のメタンハイドレートが生産により分解されると、粒子間をつなぐ結晶が失われることとなり、結果として強度低下による表層地盤崩壊等の危険性が高まります。一方、原位置にすでに生息している微生物の機能を高め、炭酸カルシウムにより粒子間をつなぐ処理を行う提案技術では、ハイドレートの分解後も人為的に析出させたカルサイトが粒子間の結合を維持することとなり、結果として表層地盤を保護する効果が期待できます。

図-4 日本海由来の微生物による結晶析出試験結果

 実際に採取したサンプルから単離した微生物を用いた結晶析出試験の結果を図-4に示します。向かって左が倍率200倍、右が1000倍となります。砂粒子の間に微生物由来と考えられる結晶鉱物の析出が確認されました。今後は、人工的に生成させたメタンハイドレートを含む砂地盤中に同様の処理を行い、メタンハイドレート、砂、結晶鉱物がどのように組み合わって強度を維持しているのか等、実現場への適用に目指した応用研究に取り組んでいければと考えています。

謝辞
 本学の海洋実習実施にあたりご協力いただいた長崎大学水産学部附属練習船長崎丸の皆さま、期間中の観測に際し学生にアドバイス頂いた九州大学 千手先生、大島商船高専 千葉先生、富山高専 福留先生に感謝いたします。

参考文献
畠俊郎、筒井英人、米田純、山本晃司:分子生物学・地盤工学の連携による海洋分野を対象とした新規技術開発、地盤工学会誌、Vol.67-3(734). pp. 16-19,2019.

はた・としろう

広島県出身。信州大学工学部卒業後、株式会社フジタ、長野工業高等専門学校を経て着任。地盤環境工学、応用微生物学などを専門とする。

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