とやまの土木-過去・現在・未来(11) 富山湾の寄り回り波とは?

富山県立大学工学部 環境・社会基盤工学科准教授 呉 修一

 筆者が2016年に富山県立大学に着任する前から、富山には『寄り回り波』という特徴的な波が存在すると聞いていた。実際に、過去には表-1に示す被害が富山湾沿岸で生じている。寄り回り波による沿岸部の浸水時の写真(富山県庁HPより)を図-1に示すが、危険な状況が見て取れる。

表-1 過去に発生した主な寄り回り波の被害(富山地方気象台リーフレット『寄り回り波を知る』より,https://www.jma-net.go.jp/toyama/yorimawarinami/yorimawarinami_leaflet_.pdf)

図-1 宮崎漁港海岸の浸水時の写真(富山県庁HPより,http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1503/kj00015225-002-01.html)

 しかしながら、富山県立大学に着任後、地元の方々と雑談しているさい、『寄り回り波は最近減っている気がする』とお話しされていた。これは現象自体が減ったのか、海岸堤防の整備による被害の減少か、もしくは2008年の被害以来、年月がたっただけなのか、気になるところであった。また、そもそも寄り回り波とは何なのか?これを正確に説明できる人は富山にも少ないと考える。

 よって本稿では、富山湾特有の寄り回り波を紹介するとともに、予測の方法や地球温暖化で将来、寄り回り波などはどのように変化するのか?などを議論してみたいと思う。

なぜ『寄り回り波』と呼ばれるのか?

 寄り回り波とは、うねり性波浪による高波であり、富山県沿岸に従来から多くの被害を生じている。『寄り回り波』と呼ばれる所以は、富山高等専門学校の河合雅司教授(河合,2012)が大変興味深く解説されている。河合先生は、1864年の古文書から幕末のころに寄り廻り高波という言葉が一般的に使用されていたことや、1935年の「北陸タイムス」の新聞記事で寄り回り波の単語を使用し被害報告がされていたことなどを解説している。

 語源に関しては、富山県河川課の瀧内俊朗氏が「富山湾の東部と西部で、大きな波が押し寄せる時間が数時間ずれている。この時間差攻撃が『寄り回り波』という名前の語源にもなっている」という考えなどを紹介した。また、河合先生ご本人は、「寄る」には波が岸に近づくという意味があり、うねりが沿岸に近づくにつれて方向を変える、つまり「回る」ことと、しかも波高が高くなっていることに気付いた船乗りが、その様子をそのまま「寄り廻り高波」という波の名称にしたのではないかという考えを述べられている。

寄り回り波の特徴

 過去に寄り回り波の特性解明に向けた研究は多くされてきた(例えば、麻柄ら(2014))。その中でも最近の寄り回り波について調査した報告事例(麻柄ら(2014))から、寄り回り波の基本特性で理解しやすいものを列挙してみる.

(1)富山湾への侵入時期:寄り回り波は、一般に10月から3月の冬季にかけて富山湾に侵入する。

(2)突如来襲(意外性):低気圧が富山湾周辺を通過し、風や風浪がおさまり天候も回復した頃に突如来襲する。

(3)時間差での発生:富山湾の東部と西部で、寄り回り波の来襲時間が数時間程度ずれる傾向がある。

(4)地域性:複雑な海底地形の影響で寄り回り波が屈折し、大きな寄り回り波が押し寄せる沿岸とそうでない沿岸が存在する。

 上記が特徴を簡単にまとめたものである。富山地方気象台の寄り回り波のリーフレットでは、図-2のように寄り回り波の発生メカニズムを説明している。

図-2 寄り回り波の発生メカニズムの概要(富山地方気象台リーフレット:『寄り回り波を知る』より,https://www.jma-net.go.jp/toyama/yorimawarinami/yorimawarinami_leaflet_.pdf)

寄り回り波の数値予測

 寄り回り波のメカニズム解明と、事前予測を目的として、パソコンとプログラミングを用いた数値計算の取り組みが多くなされている(例えば、李ら(2008)、太田ら(2016))。筆者の研究室(津田ら、2019)でも同様に数値計算を行っているので簡単に紹介する。

 計算にはオランダのデルフト工科大学で開発されたSWAN(Simulating Wave Nearshore)を用いており、2008年2月の富山および直江津での寄り回り波の再現計算結果を図-3に示す。富山湾外の直江津では良好に有義波高と周期を計算できているが、富山の有義波高9.92 mは再現できていない。この極めて高い有義波高9.92 mを再現した研究は筆者の知るかぎりでは存在しない。これは太田ら(2016)が指摘しているように、富山湾沿岸部の複雑な海底地形の影響などが考えられている。今後、筆者の研究室では寄り回り波の更なるメカニズムの解明に向けて、この有義波高9.92 mの再現を目指していく予定である。

図-3 富山(上)、直江津(下)における2008年2月22~25日の有義波高と有義周期の観測値及び計算値の時系列(津田ら、2019)

地球温暖化の影響は?

 筆者の研究室では将来の温暖化が富山湾および東日本海の風速に与える影響に関して、基礎的な検討を行っている(津田ら、2019)。d4PDFデータを用いて過去と将来の平均風速を比較した結果を図-4に示す。図より、東日本海領域における将来気候では、現在気候より平均風速が低くなっていることがわかる。富山湾周辺領域における将来気候では、7月から11月にかけて現在気候よりも平均風速が低くなっている。将来的には地球温暖化の影響で東日本海領域では1年を通じて、富山湾領域では7月から11月にかけて、風浪による波高の低下が生じる可能性が考えられる。

図-4 将来・現在気候における東日本海領域(左)および富山湾周辺領域(右)における月平均風速(エラーバーは標準偏差を示す)(津田ら、2019)

 このように、東日本海領域では将来の風速の減少が予想された。この要因として、現在気候では台風が本州を通過するような軌道に対して、将来気候では台風が本州をかすめるよう太平洋側を通過するような軌道に変化することなど、台風経路の変化が要因の一つとして考えられる。しかしながら、うねり性波浪である寄り回り波では、低気圧の発生位置・強度、風向や継続的な風速の時空間分布などの評価が重要となる。よって、現在・将来気候から継続的な強風の抽出を行い、SWANを用いた波浪計算を通じて、今後は寄り回り波自体の将来展望を評価していく予定である。

 本稿で議論したように、富山湾特有の寄り回り波は、更なるメカニズムの解明、予測手法の精度向上、将来展望の予測など、まだまだ取り組むことが多い。更に富山湾の海岸は、寄り回り波以外にも、砂浜の減少や海岸浸食など、極めて多くの課題が存在する。今後、地球温暖化により海水面の上昇が懸念されるなか、これらの問題は更に顕在化する可能性があり、状況を注視する必要がある。

  参考文献

  • 麻柄葵,河合雅司,三井正雄,眞岩一幸:2013年4月の寄り回り波について,日本航海学会論文集,第130巻,pp93-98, 2014.
  • 河合雅司:寄り回り波について,平成24年度富山県大学連携協議会公開講座資料, 2012.9.1, http://www.nihonkaigaku.org/library/lecture/寄り回り波%EF%BC%88河合%EF%BC%89講義.pdf
  • 津田直樹,八木隆聖, 呉修一:富山湾における寄り回り波の予測手法の構築と温暖化の影響評価,第27回球環境シンポジウム講演集, 2019,投稿中.
  • 李漢洙,山下隆男,駒口友章,三島豊秋:メソ気象・波浪推算モデルによる2008年2月の寄り廻り波の再現計算,海岸工学論文集第55巻,pp.161-165, 2008.
  • 太田俊紀,松浦知徳,村上智一,下川信也:地形効果による寄り回り波の波浪特性,土木学会論文集B3, Vol.72, No.2, 2016.
くれ・しゅういち 
東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、カリフォルニア大学デービス校、北海道大学、東北大学災害科学国際研究所を経て、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。水工学、防災学などを専門とする。

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