とやまの土木-過去・現在・未来(10)富山湾の津波リスクをどう考えるか?

富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授 呉 修一

 2011年3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震は、死者・行方不明者2万人以上を生じる大災害となった。この東日本大震災を契機に、『想定外を事前に想定する』ための取り組みが多く行われている。日本海側でも津波リスクを詳細に評価するため、国の『日本海地震・津波プロジェクト』が実施され、富山県でも震源断層や津波波源モデルの見直し、しいては津波ハザードマップの改定が行われた。

 しかしながら、本学学生に河川洪水災害と津波災害のどちらに卒業研究で取り組みたいかを尋ねると、愛知や静岡出身の学生は津波災害に取り組みたがり、富山出身の学生は河川洪水災害に取り組みたがる傾向にある。愛知や静岡出身の学生は、もちろん東海地震や南海トラフ大地震への懸念から津波への関心が高い。しかし、富山の学生は『富山で津波に取り組んでも…』という答えが多く聞かれるなど、津波が身近なものとは考えられていない。

 よって、本稿では、富山で過去に発生した津波を整理するとともに、富山の津波の特徴や注意すべき点などを精査し、富山の津波リスクをどう考えるかを議論してみたい。

過去の津波

 過去に富山湾で発生した津波を整理してみる(表-1)。東北大学災害科学国際研究所などが整備した津波痕跡データベースによると、1833年山形県沖地震、1964年新潟地震、1983年日本海中部地震、1993年北海道南西沖地震で津波が確認されている。

 真偽不明なものとして1614年慶長地震による津波が報告されていたが、その地震自体も幻の可能性が考えられている。東北大学災害科学国際研究所の蛯名裕一准教授の古文書の解析によると、1858年飛越地震の際、土石流による津波以外にも富山湾沿岸で津波のような挙動・被害が確認されている。内陸を震源とする地震のためメカニズムは不明であるが、極めて興味深い話である。このように、津波痕跡が確認された津波イベント以外にも、富山湾で津波が生じていた可能性がある。

 新潟大学の卜部厚志准教授(卜部,2016)は、上記した『日本海地震・津波プロジェクト』による津波履歴の解明を目的として、津波イベント堆積物の調査・検討を行っている。富山湾沿岸での調査より、沿岸の各地点に共通する津波による可能性が高いイベント堆積物は、約7,900-7,800年前、約5,000-4,800年前、約2,500-2,000年前、約800-700年前の4 層準が報告されている。過去8000年に4回、土砂堆積が生じるレベルの津波が発生していたことが明らかとなり、富山の津波リスクを考えるうえで極めて有益な調査結果が報告されている。

富山湾の想定断層と被害

 富山県では、『富山県防災会議地震対策本部』を東日本大震災後に設置し、富山県に影響を及ぼすおそれのある断層の選定などを通じ、『最大クラスの津波(L2津波)』に対して総合的防災対策を構築する際の基礎となる津波浸水想定を作成・公表している。

(富山県防災・危機管理課:津波シミュレーション調査の結果の概要について,http://www.pref.toyama.jp/cms_pfile/00017580/01067018.pdf)

 断層として、糸魚川沖(F41)、富山湾西側(F45)、呉羽山断層帯などが検証され、最高津波水位や到達時間、浸水域、浸水深などが公表されている。表-2に県が公表した、沿岸市町毎の最高津波水位、最高津波到達時間、海面変動影響開始時間を示す。最大のもので、入善町に10.2 mの最高津波が7分で到達することが示されている。また、滑川市では6.8 mの最高津波が3分で到達することが示されている。

 やはり特筆すべきは、津波の到達時間の短さであろう。これは想定地震断層が沿岸部から近い点と、富山湾の水深が深く津波の伝播速度が大きいためである。しかしながら、浸水深5 mを超える区域は沿岸から概ね10 m以内であるなど、速やかな避難が実現できれば人的被害は抑えられる可能性が高い。

 県の公表した浸水想定をもとに、各市町では、津波ハザードマップの作成・公表・配布などが行われている。一例として射水市の津波ハザードマップを図-1に示す。津波浸水開始時間も同時に記載されており、到達時間の短い津波を意識したものとなっている。

図-1 射水市の津波ハザードマップ(全体図) (射水市HPより,http://www.city.imizu.toyama.jp/appupload/EDIT/069/069054.jpg)

津波シミュレーションの概要

 上記した津波の浸水範囲、浸水深などは数値シミュレーションを通じて算定する。著者の富山県立大学河海工学研究室では、県内の大学として初めて、富山湾を対象とした津波シミュレーションを実施している。その概要は、鈴木ら(富山県立大学紀要,2019)の文献を参照されたい。また計算結果の動画などは、河海工学研究室HP(河海工学研究室,2019)を見ていただきたい。計算結果の一例として、射水市(上)と黒部市・入善町(下)の浸水開始時間分布を図-2に示す。本計算は、富山湾西側断層の1ケースのみの結果なので、詳細は各市町のハザードマップを確認していただきたい。

図-2 津波シミュレーションより算定された射水市(左)と黒部市・入善町(右)の浸水開始時間

 その他にも、海岸堤防の影響の有無(図-3)や堤防嵩上げ・増設の効果、可能移動範囲と浸水開始時間の関係などが現在解析されている。今後は、想定断層を増やすとともに、多くのソフト・ハードでの津波への対応策を検討し、本津波シミュレーションを通じて、対応策の有効性や費用対効果などを検証していく予定である。

図-3 黒部市・入善町での最大浸水深分布(左:海岸堤防なし,右:海岸堤防あり)

富山の津波リスクをどう考えるべきか?

 では、実際に富山の津波リスクをどう考えるべきか。発生頻度としては、過去の8,000年で4回、イベント堆積物が生じる津波が発生しており、ラフに考えれば大きな津波は2,000年に1回程度の発生頻度と考えることができる。また津波による浸水深は、ハザードマップで確認していただくとわかるが、短時間で浸水が開始し5 mを超えるような浸水深が生じるのは、沿岸部の低地や河川沿いなどに限られている。浸水深が大きくなるケースでは、浸水開始時間にある程度の余裕が存在すると考えられる。このような状況は太平洋側の想定津波に比べると対処しやすく、ソフト面での対応が可能と考える。

 重要な点は、地震が発生したら早急に避難を開始することである(これが一番難しいのではあるが…)。即時避難さえ実施できれば人的被害を抑えることは難しくない。問題になるのは早い浸水開始時間であり、これを周知する必要がある。たまたま海岸沿いを散歩していた津波の早い到達時間を知らない観光客などが、地震でアタフタしている間に津波の到達を許してしまうのが、最も懸念される状況である。

図-4 朝日町(左)、黒部市(右)の海岸沿いに設置された看板の一例

 よって、早い到達時間の周知を行い、地震が発生したら即時に海岸から離れ、少しでも高いところに逃げることが重要である。現在海岸沿いに設置されている看板は図-4のようなものであるが、これに浸水開始時間のマップを追加するなど、即時の避難を強く注意喚起するような取り組みが必要となってくる。

 上記の即時避難を推進する以外にも、富山の過去の津波の詳細を、古文書の解読、津波堆積物の調査、津波波源モデルを用いた数値計算などを『文理融合』で総合的に取り組み、今後も津波リスクの算定精度をあげていくことも重要である。また、津波ハザードマップの見せ方として、浸水開始時間と浸水深を組み合わせた表現方法なども今後検討していく必要がある。

 最後に、避難訓練や防災教育なども極めて重要である。2,000年に1回程度で発生する津波から身を守るためには、平時の努力を通じて、リスクの存在を『忘れない』ことが肝要である。

  参考文献

  • 卜部厚志:新潟~富山地域の海岸低地に記録されたイベント堆積物,日本地質学会第123回学術大会,2016, https://www.jstage.jst.go.jp/article/geosocabst/2016/0/2016_039/_pdf/-char/ja
  • 鈴木颯, 呉修一, 原信彦:富山における詳細な浸水被害の事前把握に向けた津波の伝播・浸水計算,富山県立大学紀要, 29, pp.63-69, 2019.
  • 河海工学研究室:http://www.pu-toyama.com/ 
くれ・しゅういち
東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、カリフォルニア大学デービス校、北海道大学、東北大学災害科学国際研究所を経て、富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。水工学、防災学などを専門とする。

 

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