とやまの土木-過去・現在・未来(9) 黒部川扇状地の地下水―理想と現実―

富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授 手計 太一

 富山の豊富で良質な地下水は、富山の社会・経済を支えている重要な要素であることは間違いありません。生活用水として人々の生活を、そして工業用水として世界的に著名な大企業を支えています。

 現在では、地下水のみで生活用水を賄っている家庭は希少になってきました。ただしこれは決して美しい話だけではありません。我が国は一般に上下水道一体で料金を支払っていますから、上水だけ無料ということはありません。地下水だけで生活用水を賄っている場合は、下水道を無料で利用していることになります。公平性の観点から、決して看過できない問題です。もちろん、各々の家庭や地域の状況もあるため、一刀両断とはいきませんが、社会の問題として地域で共有すべき事柄です。

 環境省(当時環境庁)では、全国に多くの形態で存在する清澄な水について、その再発見に努め、広く国民にそれらを紹介し、1985年(昭和60年)3月、全国各地100カ所の湧水や河川を「名水百選」として選定しました。これら水資源の啓蒙普及を図るとともに、選定を通じて国民の水質保全への認識を深め、併せて優良な水環境を積極的に保護すること等、今後の水質保全行政の進展に資することを目的としたものです。

 富山県では、全国最多の4カ所、立山玉殿の湧水(立山町)、穴の谷の霊水(あなんたんのれいすい)(上市町)、黒部川扇状地湧水群(黒部市、入善町)、瓜裂清水(うりわりしょうず)(砺波市)が選定されました。

 さらに、2008年(平成20年)には、水環境保全の一層の推進を図ることを目的に、地域の生活に溶け込んでいる清澄な水や水環境の中で、特に、地域住民等による主体的かつ持続的な水環境の保全活動が行われているものを、1985年選定の「名水百選」に加え、「平成の名水百選」として選定し、合わせて200選となりました。

「とやまの名水」に66件

 このときにも、富山県から4カ所、行田の沢清水(ぎょうでんのさわしみず)(滑川市)、いたち川の水辺と清水(富山市)、弓の清水(高岡市)、不動滝の霊水(南砺市)が選定されました。現在では、「昭和の名水百選」と「平成の名水百選」として紹介されています。

 また、富山県では独自に、1986年2月に55件、2006年に11件の合わせて66件を「とやまの名水」と呼んでいます。環境省や富山県のホームページに地図情報も掲載されていますので、ぜひご覧いただくとともに、足を運んでみてください。

 地下水にあまり詳しくない県民(無関心や当たり前と思っている皆さんを含む)にとっては、噂ないしは都市伝説のような形で地下水の由来を信じていることが多かろうと思います。多くの県民は、平野部の地下水は北アルプス、立山連峰、白山連峰などからこんこんと沸いていると思われているのではないでしょうか。

 また、常願寺川から伏流した地下水が神通川を越え庄川や小矢部川に流れているといった話も耳にします。一般に、河川水など表流水については、流域界という地形から定まる領域で理解することができますが、地下水も同様の領域か否かは不明な場合が多いと考えられています。

 本稿では、私たちの研究グループが約10年にわたって連続的に観測、調査を実施している黒部川流域の水循環、扇状地の地下水についてご紹介します。富山には、庄川扇状地などに日本のみならず世界的に著名な地下水環境があります。ここで取り上げる黒部川扇状地では、扇状地全域の地下水位が統計的有意に漸減していることがわかっています。しかし、その決定的な原因については特定できていません。いまどのような水循環環境、地下水環境にあるのかご紹介いたします。

 黒部川扇状地は、北アルプスの鷲羽岳に源を発する黒部川がつくりだした扇状地です。本扇状地は、扇頂から黒部川河口までの距離が約13.4 km、面積は約96km2、そして扇頂から扇端までの勾配は約1/100と全国屈指の急勾配河川です。

 現在の黒部川扇状地は、最終氷河期最盛期(今から約2万年前)以降の沖積世で海水準の上昇に伴い急速に形成されたものです。現黒部川扇状地面を形成している沖積層は、現在までの1万年あまりの間に、今とあまり変わらない営力環境の下で運搬・堆積した地層です。黒部川扇状地の主な帯水層は、現扇状地堆積物(sg・Or)、更新世の古扇状地堆積物(g1~g3相当)、呉羽山層(g4)の砂礫・礫層であり、扇頂から扇央付近の現扇状地堆積物(sg・Or)、古扇状地堆積物(g1~g3相当)中には不透水層となる連続性の良い粘土層はほとんど分布していません。また、黒部川扇状地の現扇状地堆積物は扇状地全体で、深度約0mから100mまで概ね一様に堆積していると推定されています。

地下水の年齢とは

 最初に、一般にも馴染みのある地下水の年齢についてご紹介します。地下水の年齢とは、正確には滞留時間を意味し、私たちの研究グループでは、地下水の年齢に応じて、トリチウム(3H=T)と放射性炭素(14C)を利用して年代測定を行っています。

 トリチウムは水分子を構成する半減期12.43年の水素の放射性同位体です。自然環境におけるトリチウムはトリチウム水の形として存在しており、降水によって地上にもたらされます。地中へ浸透すると、他の物質と反応せずに水とともに移動し、半減期に従ってその濃度を減少させる特徴があるため、地下水の涵養年代を推定することができます。放射性炭素年代測定は年代測定の中では、一般の方にも馴染みのある考古学や地質学などの分野でよく利用されています。

表1 11カ所の井戸の地下水の年齢をトリチウムを用いて行った推定結果

図1 地図化した地下水の年齢推定結果

 表1は11カ所の井戸の地下水の年齢についてトリチウムを用いて行った推定結果、またこれを地図化したものを図1に示します。なお、表1には室堂にある玉殿の清水の測定結果もあわせて示します。2番と5番は井戸深度が深く、トリチウムによる測定限界を超えていたため、炭素同位体による結果を示しています。扇央から扇端まで扇状地全域の一般に良く利用されている浅層や自噴井の地下水の年齢は、31~35年という非常に若い年齢であることがわかります。一般的な地下水の年齢と比較すると驚愕する若さです。

 一方、丸田工業が採水と販売をしている「宝石の水」と前沢の地下水の年齢は、前者が1680年(±30)、後者が2800年(±30年)と非常に古い地下水であることがわかっています。前者については、宝石の水の広告にもほぼ同様の年齢であることがPRされています。

 ここからは少し専門的な話も交えながら、自噴井の水質と水量についてお話いたします。本来地下水を議論する場合には、地下水位を利用することが一般的ですし、地域全体を考える上では重要な物理量です。そのため私たちのグループは自噴水量の変化量と地下水位の変化量が同様であること、自噴水と止めて利用者に迷惑を掛けないことを重視し、自噴水を対象に研究しています。

 私たちのグループでは、2010年秋から、毎月欠かさずに観測、調査を実施しています。自噴井の地下水の自噴量は、黒部川左岸側で5地点、右岸側で10地点において継続的に測定しています。測定方法は規定容量(15リットル)の容器が満水になるまでの時間を測定することで算出し、3回測定した値の平均値を自噴量としています。

 次に、水質観測と分析です。pH、水温、ECは現地観測の際にポータブル型水質計(HORIBA社製LAQUAactD-70/ES-70)を用いて全観測地点で測定しています。ECは25 ℃の換算値を算出しています。また、高志野中学校では、2011年12月21日から水温ロガー(HOBO水温ロガーPro v2)を用いた連続観測(5分間隔)を実施しています。溶存イオン量については、現地観測の際に採水し、実験室で分析を行っています。

 溶存イオン量の分析項目は、ナトリウムイオン(Na+)、アンモニウムイオン(NH4+)、カリウムイオン(K+)、マグネシウムイオン(Mg2+)、カルシウムイオン(Ca2+)、塩化物イオン(Cl)、硝酸イオン(NO3)、硫酸イオン(SO42-)、炭酸水素イオン(HCO3)、二酸化ケイ素(SiO2)の10項目です。炭酸水素イオンは滴定法、二酸化ケイ素はモリブデン黄吸光光度法、それ以外の溶存イオン濃度は孔径0.22 μmのメンブレンフィルターでろ過した後、イオンクロマトグラフ法(DIONEX製ICS-2000)で算出しています。

可視化難しい地下水、継続的にモニタリングを

 まず自噴水量についてご紹介します。自噴量の平均値は約30~60リットル/分です。特に入善町にある蛇沢では、平均して272リットル/分という大量の自噴水が出ています。また、入善町側の方が黒部市側よりも約5倍水量が多い観測結果が得られています。

 旧河道の推定図と比較すると、入善町の自噴箇所には太い旧河道があることがわかります。3カ所の自噴井は冬期に水が上がってこなくなっています。本観測箇所以外にも、冬期の自噴涸れは多く見らます。一般の皆さんも自噴水のコンクリート土管だけが残っているのを見かけることと思います。

 沿岸部の自噴井の自噴量は7月から9月をピークに増加し、1月から3月をピークに減少する季節変動が認められます。7月から9月は雨期であり、田圃には水が張られ、河川水位が上昇する時期です。多くの涵養があることがわかります。一方、1月から3月の降雨量は少なく、河川水量も少ない状況が続きます。さらに、地下水を利用した消雪揚水ポンプが稼働する時期であり、局所的には極めて大きな影響があります。

 次に、黒部川扇状地地下水の特徴でもある水温をご紹介します。魚津における調査期間平均気温は9.6 ℃であるのに対して、地下水温は10~15 ℃の幅に期間中ほぼ一定に推移しており、最大値13.6 ℃、平均値11.8 ℃、最小値9.6 ℃でした。一般的に地下水温はその地域の年平均気温と同程度ですが、黒部川扇状地では年平均気温(泊14.2 ℃、魚津13.6 ℃;それぞれ平年値)より地下水温の方が高いことがわかります。地下水温は6月から8月にかけてやや高く(平均値より約1.3 ℃)、12月から2月にかけてやや低く(平均値より約1.3 ℃)、さらに微小ながらも季節変化が認められます。

 次に、水質についてです。沿岸部における自噴井の地下水は陽イオン中Ca2+が60~80 %,陰イオン中HCO3が60~80 %であり、Ca‐HCO3タイプの範囲内あり、地下水の循環性が高いことを示しています。これは、先述した地下水の年齢の結果とも一致しています。扇端部のいくつかの自噴井は周辺環境の影響を受けて局所的に異なる水質ですが、黒部川扇状地全域では概ね循環性の高い地下水であると言えます。

 本調査の中で、残念なことに生地の清水群の中で最も有名な清水庵の清水の深井戸で塩水化が進行していることがわかりました。もともと生地の沿岸部ではすでに塩水化が進行し、地下水利用に影響が出ていました。清水庵の清水については、深井戸であるため、そもそも塩水化には敏感な環境でしたので、これによって周辺の地下水利用を規制するなどすることは早計です。可視化することが難しい地下水は、塩水化や地盤沈下など障害が顕在化したときには環境影響が多大である場合があるため、地道であっても継続的にモニタリングをしなければなりません。「変化しない」データに意味があるのです。

大きな枠組みで議論する時期に

 最後に、黒部川扇状地の清水(しょうず)は、その存在意義について地域をあげて議論をしなければならない時期にきています。黒部川扇状地の豊富で良質な地下水は、地上に沸くことで藻や水草が急速に、そして大量に発生するため、特に自噴井(じふんせい)では清掃などの管理の負担がとても大きいという実態があります。少子高齢化、地域への帰属意識の低下など社会・経済の変化が、さらなる管理の負担を増大させています。垂れ流しの自噴水は、常に排水路を支配し計画規模以下の降雨であっても排水できないこともあります。

 これらは決して限られた狭い地域の小さな問題ではありません。上述したように、豊富で良質な地下水は生活用水よりも観光や工業での利用が多く、地下水が豊富な一部地域の問題として放置するのではなく、大きな枠組みでその存続・廃止、維持管理などを議論していくべきでしょう。

 富山県民にとっては当たり前の水、タダの水と思われがちかもしれませんが、わが国の唯一誇れる資源です。私は、富山県では地下水は行政によって管理する方向ではなく、県民による節度を信じ、将来も安定して利用できるようにして欲しいと思っています。ぜひ名水の旅をしながら、富山の地下水の将来を考えてみませんか。

てばかり・たいち 

東京都出身。中央大学大学院理工学研究科修了後、土木研究所、福岡大学を経て富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科准教授。土木工学、水理学、水文学、水資源学を専門とする。

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