揺らぐサムスン共和国:中国・華為と主導権を争うサムスン電子

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢

 アメリカと中国との貿易摩擦は、華為技術有限公司(以下華為と略す)による5世代移動通信(以下5Gと略す)のセキュリティー問題から華為に対する制裁を強化する動きに発展し、昨年12月、華為の孟晩舟最高財務責任者(CFO)兼副会長がカナダで逮捕された。この事件は世界に衝撃を与えた。米中の先端技術を巡る覇権争いを象徴する出来事であり、中国政府を後ろ盾とした中国企業が、世界を席巻するほどの実力を付けてきた証でもある。

 覇権争いの対象となっている5Gの特徴を列挙すると、そのデータ伝送速度は、2014年に始まった4G(LTE)に比べて約10倍速く、データ送受信の遅延も0.001秒(1ms)に減らすことができることから、AR(拡張現実)、VR(仮想現実)など新たな体感型ビジネスなどに求められる大容量高画質の映像を瞬時に送受信することを可能とし、また自動運転、遠隔治療、工場の運営管理(スマートファクトリー)などの安全性に係わる技術的問題を解決するとみられている。

 華為が米国との非常事態を迎えているこの間隙を縫って、サムスン電子が未来産業と位置付けている5Gで華為の追撃態勢を整えている。具体的には通信基地局の市場、5G対応の携帯電話(折り畳みを含む)などの領域への躍進を狙っている。

図① 世界の通信設備占有率
資料 : HIS(2017年基準)

 まず通信基地局についてみると、通信設備分野で華為の市場占有率は、2017年基準27.9%で世界第1位となっており(図表①)、サムスン電子の3.2%と比較して9倍以上のシェアを誇る。しかも華為はすでに中国・杭州と深圳、欧州のミラノとベルリンなどで5G基地局を構築し先行している。この現状を打破するために、サムスン電子は2020年通信設備の市場占有率20%を目標に技術開発の強化と優秀人材の確保を目指しており、華為と激突することになる。

 サムスン電子は昨年8月、AI(人工知能)、バイオ、電装部品と5Gを4大未来成長事業と位置づけ、これら4分野に対して3年間に25兆ウォンを投資する計画を発表した。これらの分野の中で、特に5Gで華為と主導権を争うことになる。

 サムスン電子としても、メモリー半導体や携帯電話の不振を乗り越える切り札として、5Gスマートフォンを実用化している。2018年2月の平昌オリンピックで5Gのデモンストレーションを実施したのを皮切りに、今年4月から本格的な販売を開始している。LG電子を含め韓国企業は5G分野で世界をリードしようとしている。

 スマートフォンが5Gに適用されれば、まずはゲームソフトに焦点があてられるとみられる。5G通信を適用した高価格スマートフォンを手にすれば、クラウド基盤ゲーム、大容量のバーチャルリアリティ(VR)、拡張現実(AR)、4K画質の映像などをリアルタイムで鑑賞できるようになる。

 5Gスマートフォンの先陣争いはすでに始まっており、サムスン電子がこの4月末にギャラクシーS10 5G(139万7000㌆)、華為も7月には5G対応のメイトXを発売すると発表した。ただし5Gの利用者を満足させるには、5G基地局が整備されなければならず、また超大容量のバッテリーの開発が不可欠となる。

 5Gフォンと同様に注目されるのは、フォルダブル・フォン(Foldable Phone:画面を折り曲げられるディスプレイ素材を採用したスマートフォン)である。サムスン電子は4月末に米国でギャラクシーホルド(畳むと4.6インチのスマホ、広げると7.3インチのタブレット)を230~240万ウォンで販売する予定であったが、不具合が指摘され販売延期となった。華。華為もサムスン電子に対抗して、フォルダブル・フォンの7月販売を発表した。

図表② サムスン電子と華為の折り畳み携帯電話の比較

 両社のフォルダブル・フォンを比較すると(図表②)、華為の価格が日本円に換算して30万円/台近く高いものの、広げた時の画面は8インチとサムスン電子よりも大きい。また華為のメイトXは、サムスン電子のギャラクシーホルドよりも技術的に容易といわれ、軽さの面でも有利である。

 中国・シャオミもフォルダブル・フォンに参戦する。この5月から販売する見込みであり、コストパフォーマンス(価格は999ドル/台)を武器にトップの座を狙う。

 サムスン電子の脅威としてつねに中国企業が浮上する。中国政府は半導体を国策と位置付けたのと同様、5G技術の延長線上にある自動運転車も産業育成強化の対象としている。ただ競合相手としてだけ中国企業を見ていては近視眼であり、ビジネスの根幹を成す5Gのグローバル・スタンダードを取得していく戦略に、サムスン電子がどこまで踏み込んでいけるか、注目される。

注 : メイトX(2,299ユーロ)のドル価格は1ドル=0.88ユーロで換算
資料 : 毎日経済新聞(2019.2.25)を加筆・修正

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