とやまの土木-過去・現在・未来(7)  コンクリートの劣化と橋梁の維持管理

富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科教授  伊藤 始

 本稿では、著者が携わっているコンクリートの劣化と橋梁の維持管理にまつわる話を述べたい。

 富山県は南側に広がる山間部から北側に広がる富山湾に向けて大きな河川が縦断するとともに、その周囲に農業用水が整備され平野を潤している。反面、これらの河川や農業用水は東西交通を遮ることとなり、交通を円滑にして市民生活を便利にするために橋梁が設置されている。

 国土交通省が点検すべき橋梁としている橋長2m以上の橋梁は、富山県管理で約3,400橋、富山市で約2,200橋、高岡市で約1,200橋、射水市で約500橋あり、その多さを知ることができる。このような円滑な交通と、市民生活を支えている橋梁に生じる老朽化とそれに対する維持管理の現状や課題を、この機会に知っていただければ幸いである。

コンクリートの劣化

 まず、富山県で見られるコンクリートの劣化を紹介する。富山県では主要河川の上流部に安山岩帯が存在する。この岩帯が斜面崩壊で砂利となって河川に流入し、河川氾濫によって平野部にも分布している。この砂利が対策を施すことなくコンクリートの材料に使われたことを一つの要因に、富山県では図-1のような「アルカリシリカ反応(ASR)」による劣化がいくつかの構造物で生じている。

図-1 アルカリシリカ反応(富山県)

 もうひとつの要因は、富山県が比較的温暖な積雪地域であるため、コンクリートへの水分供給が促進されASRが進展しやすい環境にあることだ。ASRは、化学反応を生じた骨材の膨潤作用によってひび割れが生じる劣化であり、根本的な対策がなく橋梁の維持管理における一つの課題となっている。

 一方、海岸近くの構造物や凍結防止剤が散布される主要道路では、塩水によりコンクリート内部の鉄筋が腐食する「塩害」の劣化が生じる。能登半島により西風が遮られるため、海水の作用は能登半島西岸に比べて強くないことが知られている。また、気温の低下する山間部では、コンクリート中の水分が凍結膨張することでひび割れや、はく離が生じる「凍害」の劣化が見られる。

富山大橋のコンクリート

 次に、長寿命であった先代の富山大橋のコンクリートについて紹介する。2015年に著者と研究室の学生は、先代の富山大橋に使われたコンクリートの材料試験に携わり、富山県土木部が発刊した記念誌「富山大橋」にその結果を掲載いただいた1)。

 先代の富山大橋は、1936年(昭和11年)に建設され、現在の富山大橋が開通する2012年3月までの約75年のあいだ神通川にかかる重要な役割を果たしてきた。途中、1969年(昭和44年)に神通川の出水により五福側から2つ目の橋脚が沈下し、一部の床版と橋脚が再び建設された。

図-2 富山大橋の床版からのコア削孔

 著者らは、1936年の床版と橋脚のコンクリート、1969年の床版のコンクリートについて試験した。まず、図-2のようにコンクリートからのコアを採取した。そのコアを用いてコンクリートの単位体積質量、圧縮強度、静弾性係数、中性化深さ、アルカリシリカ反応(ASR)促進膨張率、鉄筋腐食量、鋼材引張強度の各種試験を実施した。

 特徴的な点として、1936年のコンクリートでは、単位体積質量と静弾性係数が大きかったことから、当時の粗骨材の容積率が大きかったことが考えられた。1969年のコンクリートでは、静弾性係数が小さく、ASR促進膨張率が大きかったことから、ASRの劣化因子が潜在していた可能性が考えられた。その他は健全と判断され、中性化深さは20mm以下と進行しておらず、鉄筋の引張強度も低下していなかった。

図-3 コアの表面(コア径100mm)

 1936年のコンクリートは、図-3のように直径40mmよりも大きな砂利(粗骨材)が使われており、ポンプ圧送を基本とする現在の施工に比べて、手間と時間をかけて作られ、高い耐久性が確保されたことがうかがえた。このことからコンクリートの配合の基本である「粗骨材は大きく、単位水量は小さく」の考えをいま一度学ぶ機会となった。

床版の取替え

 ここでは、橋梁の大規模な維持管理の事例として、高速道路の床版の取替えを紹介する。現在、中日本高速道路をはじめとする高速道路各社は、2014年1月に策定された高速道路の大規模更新・大規模修繕計画に基づき、更新と修繕を行っている2)

 その計画によれば、対策の道路延長は全国で約2,110km、概算事業費は約3兆200億円である。事業費の約半分は床版の取替え工事が占める計画である。床版取替えの対象となる橋梁種類は桁橋が多い。

 桁橋は構造部材である鋼製の主桁と道路面となるコンクリート床版で構成される。床版取替え工事は、鋼製主桁を残して、自動車の繰返し走行による材料の疲労で傷んだコンクリート床版のみを取り替えるものである。

図-4 早月川橋梁での床版取替え工事

 富山県を横断する北陸自動車道は、1973年の小杉ICと砺波ICの開通を皮切りに順次開通していき、すべての区間で建設からの年数が30年を超えている。そして、2016年9月に早月川橋梁において床版の取替え工事が行われた(図-4)。テレビやラジオでの周知があり、数週間にわたり片側1車線の規制が続いたことを覚えている方もおられると思う。

 新潟方面に向かう下り線側の床版を取り替えた早月川橋梁の場合、下り線を通行止めとし、上り線を使って上下片側1車線の通行を確保した。床版取替えは、古い床版を走行方向に約2m間隔で切り出し、油圧ジャッキとクレーンを使って撤去する。その際に、鋼製の主桁を傷つけないように切り離すことが重要かつ難しい工程である。古い床版をある程度撤去し終えた段階で、工場で製作されたプレキャストパネルの新しい床版を設置する。そして、パネルとパネルの間にコンクリートを打ち込んで接合し、最後に橋面防水や舗装を施して完成となる。

 富山県内では、これから富山ICから立山ICの区間、小杉ICから砺波ICの区間で工事が実施される。新しい床版では、長寿命とするために、耐疲労設計、樹脂塗装鉄筋、緻密化されたコンクリート、雨水および凍結防止剤による塩水を遮る橋面防水などが適用されている。

橋梁の維持管理

 次に、我々の身近な自治体における橋梁の維持管理の課題と、今後の方向性について述べていきたい。前述のように自治体は管理すべき多くの橋梁を抱え、年数の経過とともに老朽化したものが増え、維持管理費用の増大と合理的な点検と補修が課題となっている。ちなみに県が管理する約3,400橋のうち橋長15m以上の橋梁は約800橋あり、そのうちの約半数が建設から40年を超えていることから、橋梁の年齢が大きくなっていることが分かる。

 この課題を調査するために、北陸SIPの研究グループでは、自治体への橋梁維持管理に関するヒアリングを実施した。北陸SIPとは、内閣府が所管する戦略的イノベーション創造プログラムの1プロジェクトの名称であり、2014年に金沢大学が代表校となり、本学を含む北陸の8高等教育機関で研究グループが組織された。ヒアリング調査は北陸4県で実施され、富山県内では富山市、高岡市、射水市、小矢部市、南砺市、朝日町の方に意見を伺うことができた。

 北陸4県の自治体の課題を整理すると、1つ目に点検・診断から補修までの手順を合理化することが挙げられた。その方策として、これまでの点検結果のデータベースを活用することや自治体間でデータを共有すること、ライフサイクルコストの考え方の導入、橋梁撤去の判断基準策定が挙げられた。加えて、今後はドローンの活用やカメラ画像による代替が図られると予想され、タブレット端末を使った点検作業も提案されている。

 2つ目に、重要度に応じて点検プロセスや補修方法を見直すことが課題として挙げられた。方策としてある自治体では重要度の高い橋梁を建設コンサルタントが点検し、それ以外の橋を自治体職員や建設会社が点検する取り組みがあった。3つ目は、補修後の再劣化を防ぐために、適切な補修方法と効果の情報共有が課題として挙げられた。方策として富山市と北陸SIPで補修工法の試験施工を企画し、現在協力した5社の材料を比較している。今後、これらの方策を社会に実装し続けることが重要であり、課題である。

維持管理を支える技術と技術者

 最後に、これから続いていく橋梁の維持管理を支える技術と技術者について述べていきたい。まず、技術情報の提供として、前述の北陸SIPが主催する技術展示会を紹介する(図-5)。

図-5 技術展示会の様子(富山市民プラザ)

技術展示会は毎年富山、石川、福井で開催しており、出展企業は約20社で点検技術や補修材料を中心に展示している。この活動は、自治体や地元企業に向けて最新の維持管理技術やSIP開発技術を紹介するとともに、実際の維持管理に適用するためのマッチングの機会となっている。

 そして、技術の向上と技術者の育成の場として、2007年に「富山県コンクリート診断士会」が発足した。同会はコンクリート診断士の有資格者で組織され、現在の会員数は約60名である。技術セミナーや見学会を通して点検診断技術の向上や若手技術者の教育、会員間の情報交換が実施され、富山県のコンクリート構造物を下支えする役割を担っている。

図-6 学生発表の様子(タワー111ホール)

 また、土木分野や維持管理分野の担い手育成として、本学では構造物の維持管理に関する授業を設けて、教育を行っている。学生に対する教育や研究を通して、実際の点検・補修を現場で学ぶ機会や未来の維持管理を考えて発表する機会(図-6)、他大学の学生とのネットワークをつくる機会を設けている。

 上述してきたように、橋梁の維持管理には様々な課題があるものの、技術と人材を基礎とした効果的な仕組みを構築すること、それらを実際の維持管理に活用することで解決していけると考えている。
 

1) 富山県土木部「富山大橋-ひとつの歴史が終わる、のこして伝える匠の技」2016年3月
2) 中日本高速道路株式会社「東・中・西日本高速道路㈱が管理する高速道路における大規模更新・大規模修繕について」https://www.c-nexco.co.jp/koushin/pdf/about.pdf 2019年4月閲覧

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