揺らぐサムスン共和国:創業50周年・サムスン電子の光と影

国士舘大学経営学部客員教授 石田 賢 

 サムスン電子は今年2月に創業50周年を迎えた。グループの中核企業であるサムスン電子は、50年間に売上高は3,700万㌆から243兆㌆と659倍、従業員数に至っては36名から10万名以上と実に2,862倍、この間の当期純利益の推移をみても、その飛躍ぶりが伺える(図表①)。昨年は売上高243兆7,714億㌆、営業利益58兆8,867億㌆、当期純利益44兆3,449億㌆と過去最高の実績を収めた。

図表① サムスン電子の当期純利益の推移 (単位:億ウォン)
資料 : 韓国CXO研究所(2019.1.7)及び金融監督院(2019.1.31)より作成

 このように順調に成長してきたサムスン電子であるが、現在に至るまでを検証すると、オーナー家主導の事業再編と継承権の世襲にはいつも暗い影がつきまとう。

 これまでの継承に係わる影の部分を簡単に振り返ってみよう。

 1995年、李健熙(イ・ゴンヒ)会長は、息子の李在鎔副会長に現金61億㌆を贈与して贈与税16億㌆を支払い、李在鎔副会長は残りの資金で非上場系列会社であるサムスンエスワン(警備会社)とサムスンエンジニアリングの株式をそれぞれ23億㌆、19億㌆購入した。購入直後の1996年1月に両社が上場され、李在鎔副会長は42億㌆で購入した両社の株式を600億㌆で売却した。

 1996年12月、李健熙会長はエバーランドの転換社債(株式に転換する権利の付いた社債)の97%を、李在鎔副会長(当時チーム長)に安い価格で売った。李在鎔副会長はこの時手に入れた48億3,091万㌆の転換社債を、エバーランドの株式62万7,390株に変えたことで、エバーランドの25.1%の株を持つ筆頭株主になった。

 李健熙会長が2014年5月に急性心筋梗塞で倒れた後、三代目への継承は大がかりとなり、一気に加速させている。

 2013年12月、エバーランドと第一毛織が合併し、翌年7月にエバーランドは第一毛織と社名を変更した。第一毛織がグループのコントロールタワーとなり、エバーランドの筆頭株主であった李在鎔副会長がそのまま第一毛織の筆頭株主に治まった。2014年12月に第一毛織が証券市場に上場され、李在鎔副会長の株式資産は801億㌆から3兆5,447億㌆と44倍も膨れ上がった。

 さらにサムスン物産と第一毛織の合併が計画され、これが実現すれば、李在鎔副会長はサムスン物産の筆頭株主となり、三星生命を通じてサムスン電子をコントロールできるようになる。この時、両社の合併で李在鎔副会長がサムスン物産により多くの持分を持つためには、筆頭株主である第一毛織の価値を上げなければならなかった。

 第一毛織はサムスンバイオロジクスの最大株主であり、サムスンバイオロジックスは、サムスンバイオエピスという子会社を保有していた。サムスンバイオエピスの価値を高めるために、帳簿価格が約3,300億㌆の会社を関係会社に変更して、市場価格約4兆8,000億㌆になる粉飾会計が行われた。サムスンバイオエピスの価値が上がればサムスンバイオロジクスの価値が上がり、サムスンバイオロジクスの価値が上がれば第一毛織の価値が上昇するという仕組みである。

 2015年7月、サムスン物産と第一毛織は1:0.35割合で合併した。サムスン物産との合併で第一毛織の価値が高く評価されることで、第一毛織の最大株主であった李副会長は、合併後サムスン物産の筆頭株主となり、三星生命を通してサムスン電子への支配力を強化できることになった。

図表② サムスンオーナー家の保有する企業と資本
資料 : 金融監督院電子公示システムより筆者作成

 李副会長は、サムスン電子の株保有率がわずか0.7%に過ぎないが、グループのコントロールタワーの機能を持つサムスン物産の株保有率が17.1%と最大株主となった(図表②)。一連の粉飾会計による合併で、最大の恩恵を受けたのは李副会長に他ならない。

 2018年5月、金融監督院がサムスンバイオロジクスの粉飾会計を認定し、同年11月、金融委員会監理委員会と傘下の証券先物委員会(中央選管)ともに故意の粉飾会計と結論づけた。中央選管は、粉飾会計規模を4兆5,000億㌆と推計している。

 サムスンバイオロジクスの粉飾会計が認定されたことは、2015年の第一毛織とサムスン物産の合併に疑義が生じることとなり、李在鎔副会長の継承権を根底から覆しかねず、執行猶予の破棄という最悪のシナリオも浮上している。

 現政権が推進している経営権継承に対する制限と支配構造への規制が本格化すれば、サムスンオーナー家による支配体制が足元から崩れ兼ねず、これまで競争力を生み出してきた長期的・戦略的投資への意思決定が実行されず、オーナー経営による財閥の優位性を根幹から揺るがす事態も想定される。(東洋経済日報2019年2月22日掲載)

 

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