米中関係と東アジア 「新しい冷戦」の行方は?

 NAFTAについても見直し再交渉を行った。完全な自由貿易を目指す考え方からすると相当後退した内容だが、世界経済がひっくり返るという質の悪いものにはなっていない。これから日米の貿易交渉が始まる。むずかしい駆け引きになるだろうが、日本は1980年代にアメリカとの二国間交渉をさんざんやっているから、それと似たような感じになるだろう。

議会と司法に制約される大統領

 トランプ氏は選挙戦のときから目茶苦茶なことを言ってきたが、実際にトランプ政権が行ってきたことをみると比較的ステディにやっている。このギャップはどうやって説明できるのか。ボブ・ウッドワードの暴露本やニューヨークタイムズの匿名コラムで明らかになったのは、アメリカが道を誤らないように政権内部でサボタージュが行われているということだ。

 大統領は大きな権限をもっているが、合衆国憲法の下では議会と司法に制約されるので、そう簡単に変なことはできないようになっている。予算は議会が作成し決定する。大統領は予算教書を議会に提出するが、これはあくまでも議員にとっての参考資料にすぎない。メキシコ国境の壁を作る予算もよほどのことがない限り通らない。通商交渉も議会が権限をもっており、合衆国政府が外国と結んだ通商交渉の中身は議会が認めないと実行できない。

 トランプ氏が大統領でいる以上、不確実性は続くが、これまでのところアメリカの国益に関してトランプ氏の思い通りに極端なことが起こるということは阻止されていると思う。

貿易赤字より深刻な技術移転強要

 通商交渉の中で目立ってきたのが、最大の貿易赤字を出している中国との関係だ。中国からの輸入品への関税引き上げについては、アルゼンチンでのG20の会合において当面90日間の先送りで合意した。 

 私のみるところ、米中貿易戦争と言われる現象は貿易赤字の問題というよりも、アメリカ全体の国益にとっての対中戦略に関係した問題であるということがだんだん明白になってきた。

 対ヨーロッパ、対カナダとの貿易交渉や気候変動問題におけるトランプ政権の対応については、アメリカ国内の批判は非常に大きい。ところが中国に対してトランプ政権がやっていることに対してほとんど批判はない。民主党支持層でも、中国に対してトランプ政権が行っている交渉は現段階では必用であると考える人が増えている。

 そこで問題になっているのは貿易赤字の多寡ではなく、中国当局が行っている行動であり、具体的には外国企業に対する技術移転の強要である。中国はあからさまな知的財産権の侵害も行っている。日本の企業が中国で工場を開設するとき、認可する条件として中国で製造する商品の詳細な情報を出せと言われ、そっくりそのままコピーした商品がそこら中で売り出されるということが起こる。

 アメリカは、知的財産権の侵害を中国政府が共謀して行っているという見方をしている。情報収集の手段として人民解放軍の部隊がアメリカ企業にサイバーテロを行っているという。場合によると露骨な産業スパイで技術を盗み取ることもある。

「中国製造2025」への懸念

 中国に対する姿勢が厳しくなっている背景として、構造的な変化に対するアメリカ人の危機感がある。中国が経済成長と軍事力をさらに強化し、産業技術力の革新的飛躍が起きるとアメリカにとって安全保障上の脅威になるという認識が広まっている。

 特にやり玉にあがっているのは「中国製造2025」だ。重点分野において2025年までに世界最先端に立つことを狙った中国の産業政策であり、技術移転の強要が続くと、アメリカ企業がこれを実現させることになってしまう。

 冷戦時代、ソ連がアメリカに先駆けて人工衛星を打ち上げたときはスプートニクショックと言われた。今、中国に対してそれと似たような認識がアメリカに生まれている。中国をこのままにしておいたらいずれ追い越され、離されてしまう。今の段階でできる限りフェアな競争にもっていかないと、アメリカの技術が利用されて中国の軍事能力が高まるという懸念だ。

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